伊勢崎賢治・布施祐仁『主権なき平和国家』を読み、沖縄県・地位協定ポータルサイトに想う

主権なき平和国家 地位協定の国際比較からみる日本の姿

主権なき平和国家 地位協定の国際比較からみる日本の姿

 

  酔っ払うと、すぐに「日本は米国の属国だ」と言い出す友人がいる。まあ、確かに政府は米国に弱いけど、日本の安全保障を考えれば、致し方ない。そこまで自虐的に言う必要はないだろうと思っていた。しかし、この本で、米国との地位協定の各国と日本の比較を読み、考えが変わった。主権を主張すべきところで主張しなければ、属国といわれても仕方がないかもしれない。

 日本を守るために、ある程度、米軍に優越的な地位を与えることは当然ーーそれが戦後の常識であったわけだけど、そこには洗脳なのか、無知なのか、見ていないものがあった。日本と同じ敗戦国のドイツ、イタリアにしても、日本以上に米国の軍事力に依存している韓国にしても既に地位協定を改定していたとは知らなかった。

 敗戦後の占領のなかで、独立国としての意識、主権国家としての意識を失ってしまっていたのかもしれない。国民の生命と安全のために主権を主張すべきところは主張し続けなけれならないということを。

  少し考えてみれば、在日米軍基地は、日本を守るため、というよりも、極東における米国の安全保障戦略のために存在するものであり、日本が妙に萎縮して、何でも、はい、はいという必要はないし、米国もそこは交渉であり、調整だということはわかっているだろう。同盟を強固にするためにも必要なことだと。実際に各国は自らの主権と国益のために、地位協定の改善に努めてきた。なぜ、それが実現できたのか。

ドイツでも、韓国でも、イラクでも、地位協定に関してアメリカ側の譲歩を引き出す最大の要因となったのは、受入国の「国民感情」です。「ここで譲歩しなければ、反米感情あるいは反米軍基地感情が高まってまずい」と判断した時、アメリカ側は譲歩するのです。

 なぜならば、米軍が外国と同盟を結び、そこの国に軍隊を駐留させているのは、第一にアメリカの国益のためだからです。アメリカの国益にとって重要な同盟や米軍の駐留が脅かされるとなれば、地位協定で譲歩することもあるのです。

  そうだろうなあ。で、次に来る疑問は、なぜ国民の協定改定に関する要求、国民運動は盛り上がらないのか(この本を読むまで、自分もそうだったから、あまり言えないが)。それについても、この本は明快。

  一つは(略)「地位協定問題」=「沖縄問題」と捉えられていることです。でも、日米地位協定は「沖縄問題」ではなく、日本という国の独立と主権の問題であり、政府が自国の国民の生命や安全に責任がとれるかということや、自国の未来を自己決定できるかということにかかわる国民全体の問題です。

 もう一つの理由は、沖縄を除いて、日米地位協定の改定を求める左右のイデオロギーを超えた運動が起こらなかったことです。

  問題の沖縄化かあ。伊勢崎賢治氏は、さらに、こう書く。

 アメリカの仮想敵国の真正面に位置する日本。加えて、アメリカ本土から最も離れたところで、その仮想敵国の進出を抑える防波堤となる「緩衝国家」日本。この日本を支配するにおいて、国内で「最も差別された地域」沖縄に、あえて駐留を集中させ、駐留が起因となる反米感情が、常にその地域に限定された「民族自決運動」になるように、その緩衝国家本土の「反米国民運動」に発展させない。これが誰かのグランドデザインだったら、あっぱれとしか言いようがない。

  悪魔の戦略だなあ。分割して統治せよか。実際、米国が日本や各国と結んでいる地位協定について調べようとすると、その情報ポータルサイトは...

www.pref.okinawa.jp 沖縄県のサイト...。外務省にも日米地位協定の情報はあるが...

 日米安全保障体制 | 外務省

 外務省: 日米地位協定Q&A

 日米安全保障体制のサイトの中に地位協定情報があり、Q&Aもあるものの、日米地位協定の内容に関するものに閉鎖されている。沖縄県のサイトにあるNATO、ドイツ、イタリア、韓国、フィリピン、イラクアフガニスタンなどの情報は見えない。伊勢崎氏の指摘するように、国は日米同盟のために日米地位協定に当たり前、問題はないでしょ、といい、沖縄県は他の同盟国並みの主権を求めるという構図が見えてくる。国民運動化を防ぎ、県民運動に封じ込め、無視する。これでは、変わるはずもないか。しかし、独立国としてのプライドは...。

 例えば、こんな記事を読むと、考え込んでしまう。

www.cnn.co.jp 日本でいくら米軍機が事故を起こしても、米軍にはスルーされてしまうのに、ジブチでは、政府の要請を受けて米軍は軍用機の飛行を中止...。『主権なき平和国家』というタイトルが蘇ってくる。憲法改正よりも前に、まずは、もっと主権国家らしくなる必要がありそうな...。