昨夜、テレビを見ていたら、「スター・ウォーズ」の第1作を放映していた。
エピソード4だけど、公開は第1作。これを見ていて、昔聞いたIT業界ジョークを思い出した。少々、前説が長いです。
ときは1990年代、マイクロソフト帝国のWindows軍団の猛攻の前に、アップルは壊滅寸前でした。倒産の噂さえ囁き始めるなか、経営陣は、かつて放逐した創業者のスティーブ・ジョブズを呼び戻します。王の帰還。マックな人々に「新たな希望」が芽生え、ジョブズへの期待はいやが上にも高まりました。
この時代、Macworld Expoは、マックな人々、アップル教の信者たちの総決起集会でした。1997年、ジョブズが復帰して初のMacworld Expoでは、帝国への逆襲に向けてジョブズ様が何を語るのかが注目され、期待感は最高潮に達しました。そして、そこで発表されたのは...。マイクロソフトとの提携。巨大画面に映し出されたのは、画期的な新製品ではなく、天敵からビジネス・パートナーとなったビル・ゲイツの居心地悪そうな顔でした。これはビジネスの観点からみれば、きわめて妥当で、時宜を得た政策でした*1
しかし、ビジネスとしてはいくら起死回生のグッド・ディールではあっても、帝国に虐げられてきたマックな人々はすぐには納得できません。「ルーク・スカイウォーカーがダースベイダーと手を握った」と騒然となりました。アメリカ人、「スター・ウォーズ」が好きなんですねえ。善玉のルークは当然、ジョブズ。マイクロソフトは悪の帝国と決まっています。
この想定外な組み合わせにIT周りはざわざわとしたのですが、このとき、マイクロソフトの某氏、「ビル・ゲイツはダースベイダーじゃない。間違っている」と苦々しげに言ったとか。そして「ゲイツは皇帝だ。ダースベイダーはバルマーだ」...。IT業界の人、ジョークが好きなんですよねえ。
ちなみに、昔話なので、解説しますと、バルマーは当時のマイクロソフトの社長で、営業の切込み軍団長みたいな人。その上の会長・CEOがビル・ゲイツでした。確かに、ダースベイダーはストームトルーパー軍団を率いて反乱軍を圧倒しますが、その上には、ひと睨みするだけで、ダースベイダーもゼエゼエさせてしまうような恐怖の皇帝様がいました。映画の設定からいうと、確かにジョークのとおり。洒落た切り返しです。ジョークはディテールが大切ですね。
iPad片手にテレビで「スター・ウォーズ」が流れているのを見ていて、こんなギョーカイのオールド・ジョークを思い出しました。
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*1:今では、もうわからないと思いますが、当時、アップルはもはや命運尽き、経営破綻が避けられないのではないかと噂され、アプリケーションソフトメーカーの中にはMac向け製品の開発を中止する動きも出ていました。今は、ブラウザーがあれば、いいじゃん、という時代ですが、この頃はブラウザーは出てきたものの、インターネット爆発前夜、パソコンはアプリなければ、ただの箱。アプリの開発が続くかどうかは死活問題でした。▼そうしたなかで、今でもパソコン最強のキラーアプリといえるMicrosoft OfficeがMac向けに開発を継続すると宣言することは大きな意味がありました。ビル・ゲイツがユーザーや他のアプリメーカーにアップルの存続を保証したわけです。もっとも、これはかつてのライバルに対する善意というわけでもなく、ゲイツにはゲイツの事情がありました。▼当時、マイクロソフトにとって最大の懸案は米司法省との間でWindowsの独占禁止法違反問題が持ち上がっていることでした。ライバルに潰れてもらっては困る。マイクロソフトにとっては独禁法対策でもあったわけです。若いときから天敵だったジョブズとゲイツはお互いの損得からディールする「おとな」になっていました。▼ジョブズはその後、iMac、iBook、iPhone、iPadと快進撃することになりますが、このときはマックな人々に夢を振りまくよりも、ソフトメーカー、周辺機器メーカーなどの取引先、投資家、一般的なユーザーを安心させ、眼の前の信用問題を解消することが最優先で、マイクロソフトと提携を決めたことで、次の飛躍への時間を稼ぐことに成功したわけです。ジョブズが本物の経営者となった瞬間でもありました