NETFLIXで「イカロス」を見る

 「イカロス」は第90回アカデミー長編ドキュメンタリー賞を受賞した、ロシアのドーピング疑惑のレポート。WOWOWの授賞式中継で見て、注目していたのだが、NETFLIXにあった。というか、NETFLIXオリジナル作品だった。
★「イカロス」 => https://www.netflix.com/jp/title/80168079
ランス・アームストロング ツール・ド・フランス7冠の真実 [DVD] 疑惑のチャンピオン [Blu-ray] ツール・ド・フランス7冠、絶対王者といわれたランス・アームストロングのドーピング事件にショックを受けたアマチュア自転車選手でもある監督が自らドーピングの体験ルポを企画、実行するのだが、その際に知恵と力を借りたロシアのドーピングの専門家が、ロシアの国家ぐるみのドーピング疑惑の主人公だった…という予想外の展開を見せるドキュメンタリー。まさにウソのような本当の話。最初はコミカル、後半はロシアの(暗殺の)手をいかに逃れるかというポリティカル・ミステリー。まさに事実は小説より奇なり、のドキュメンタリー。
 ロシアのドーピング疑惑を最初に報じたのは、ドイツのテレビ局の調査報道ドキュメンタリー(日本でもJ Sportsで「The Real ドーピングにまつわる機密文書」のタイトルで放映されていた)。これはこれで追跡型のミステリーのような衝撃的なレポートで、ロシアに対する反ドーピング機関の調査のきっかけになった。このドイツの番組が放映され、金メダルを簒奪する国家ぐるみのドーピング問題が表面化、炎上していく様子が取材される側、当事者のひとりの側から見ることができる。「イカロス」の主役ともいえるロシア反ドーピング機関所長のグリゴリー・ロドチェンコフも、ドイツのドキュメンターにも登場する。ドイツの番組では、疑惑を指摘されながらも、ドーピングを否定していたが…。両方見ると、重で舞台、裏舞台双方を覗ける。
 ドイツの番組を見て、しばらくたってから、ロドチェンコがニューヨーク・タイムズにロシアのドーピング疑惑を内部告発したことを知って、どうして、そんなことになったのかと思ったのだが、「イカロス」を見ると、この間の事情がわかった。もはや自分の身を守るためには、内部告発して、身を晒すしか、生き残る道はなかったのだなあ。プーチンのロシアは、政府にとって不都合な人間は消えていくことが多いから、その恐怖心が内部告発を呼ぶ面もあるのだと思う。
 ともあれ、ドラマ以上に、面白くて、怖いドキュメンタリー。これを見ると、平昌五輪でロシアの参加が認められなかったのは当然と思える。リオ五輪に、条件付きとはいえ、ロシア選手団の参加を認めたのは商業主義優先のIOCらしい甘い判断に見えてくる。で、平昌とリオの間に何があったかというと、「イカロス」だったのかもしれない。この映画も、平昌での厳しい判断に通じる一つの要因だったのかもしれないなあ。
 スポーツは、カネと政治に飲み込まれ、そこに、個人の欲(金銭欲、名誉欲など)が絡み合って、難しい存在になっているのだなあ。そこに科学の力が入って、さらに大変なことに…。そんな、いろいろなことを考えさせる、スリルとサスペンスのドキュメンタリーでした。東京オリンピックはどうなるのだろう。
 NETFLIXが映画やドラマの自社制作に力を入れているのは知っていたが、ドキュメンタリーでも頑張っていることも驚きだった。潤沢な資金に加え、広告主に配慮しなくていいネットの巨人、NETFLIXはドキュメンタリーでも面白い存在だなあ。

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