宮田律『物語 イランの歴史』を読むーー帝国の記憶を持つイスラムの大国

 米国やサウジから敵国視されるイランってどんな国なんだ、と思って、読んでみた本。

物語 イランの歴史―誇り高きペルシアの系譜 (中公新書)

物語 イランの歴史―誇り高きペルシアの系譜 (中公新書)

 

  なるほど、こんな国だったのだ。イランは副題に「誇り高きペルシアの系譜」とあるように、かつて帝国だったペルシアの記憶をもつ国なのだ。「帝国の版図は、西はアフリカ大陸北部、現在のリビアにまで伸び、ヨーロッパはギリシアの一部、さらに東は現在のアフガニスタンパキスタンをも包摂するほどだった」という。広大な帝国だったのだ。

 だから、プライドも高い。サウジ・アラビアは所詮、石油で一発当てただけの盗賊(ベドウィン)の末裔。トルコは、軍事自慢の筋肉マッチョみたいに見えるらしいし、歴史を見れば、そう考えるのもわからないではない。中東のなかでも、かつて世界史のトップを走った歴史をもつイランと周辺国とでは格が違うのだな。そう考えると、中東の盟主のように他国に干渉する行動をとるのもわかるし、オイルパワーによって現代中東の盟主と自認しているサウジがイランを嫌うのもよくわかる。加えて、スンニ派シーア派の対立もある。

 やはり歴史を知ることは大切なのだなあ。で、目次をみると

 序 章 イラン人の日常生活と文化

第1章 ペルシャ帝国の栄光とイラン文化の形成

第2章 イラン文明のイスラームとの融合

第3章 西欧帝国主義との出会いと宗教文化

第4章 民族運動の台頭と挫折

第5章 イランーアメリカ相互不信の背景

第6章 イランの伝統文化の探求

第7章 模索するイランのイスラーム

第8章 イランはどこへ向かうのか?

  イラン、イスラムが入るまでは、ゾロアスター教だったのだ。そして、イスラムも少数派のシーア派イスラムの聖職者であるウラマーとバーザール商人の親密な関係とか、言葉は知っていも断片的で、系統だっては知らないことが多かっただけに読んでいて面白かった。

 一方、石油は富と力の源泉であると同時に、米英の帝国主義を招くことにもなったのだな。石油利権はアメリカとイギリスが分け合い、第二次大戦後、モサデク首相が目指した「不安定な立憲君主制」よりも国王の「安定した独裁君主制」を支持する。民主主義は不安定で、独裁は利権の獲得、擁護に都合がいい。一時は、イギリス、ソ連に対抗するものとして「自由の国、アメリカ」に対する期待もあったらしいが...

一九五三年のCIAの介入によるクーデター、一九六三年のホメイニーに率いられた民衆蜂起の失敗が、イランにおける反米感情を形成し、展開させる要素になったことは、疑う余地がない。このことは ホメイニーのアメリカ帝国主義に対する「闘争」が、やがて一九七九年のイラン革命、またそれに続くアメリカ大使館占拠事件(一九七九年一一月~八一年一月)につながっていった事実を見れば否定すべくもない。

 アメリカ大使館占拠は暴挙ではあったが、そこまで走る反米感情には、それだけの歴史的経緯もあったのだな。アメリカは、パフラヴィー国王時代の悪名高い秘密警察SAVAKを支援していたし、こんなことも...

特に、兵器マニアの国王によって、計画性も秩序もなく大量の最新兵器が国民の福利とは関わりなく購入されていったことは、王政やその背後にあるアメリカに対する国民の反感を強めていった。

 なんだか、どこかの国を思い出すような....。

 で、イランの近況については、こんな記述が...

 イランは、「現代社会の病理」をイスラームに基づいて治そうとしたまさに先駆的な国だった。しかし、革命後の混迷する政治・社会の現実は、イスラームに対するイラン人の信頼を揺るがせた。その結果、イスラームによる「世直し」の提唱は、求心力を喪失し、イランの民族的プライドに訴えるナショナリズムに人々の関心が移行するようになっている。

 この本の出版は、2002年で、もう17年たとうとしているわけだが、イランはどうなっていくのだろう。中東情勢は不安定で、イランとサウジの対立は激化し、アメリカはトランプ政権になりイランに対して強硬姿勢を見せている。21世紀にイランはどう変わったのか。アメリカ、ロシア、そしてサウジを始めとした周辺国との関係はどうなっていくのか。続編を読んでみたい気がする。このあたりが続編の役割を果たしているのだろうか。

アメリカ・イラン開戦前夜 (PHP新書)

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  何だか、どれもきな臭いタイトルだなあ。ともあれ、「物語 イランの歴史」は、イランの成り立ちを知る上で、コンパクトにまとまった良い入門書でした。