「スリー・ビルボード」ーー脚本と俳優で魅了する、アメリカの片田舎を舞台に語り口は英国テイストの人間ドラマ

 昨年見た映画の中では最も面白く、刺激的だった。

  娘をレイプ殺人事件で失った母親が、なかなか進まない捜査に激怒して、地元警察を批判する3枚の立て看板(ビルボード)を出したことから、街はざわめき出し...という筋書きは事前知識として知っていたのだが、そこからの展開は予測を大きく超えるものだった。読みを次々と外していく展開は見事。

 母親役のフランシス・マクドーマンド、署長役のウディ・ハレルソン。ともに大好きな役者さんで、このふたりを見ているだけでも飽きないのだが、それ以上に監督・脚本のマーティン・マクドナーの手腕を感じる。この人、劇作家でもあるという。脚本がしっかりしているのも納得。

 アカデミー助演男優賞をとったサム・ロックウェルをはじめ、登場人物一人ひとりの人間を上っ面だけでなく複層的に描く。善か悪か、人間とは複雑なもので、単純に決めつけられるものでもない。見ていて、舞台はアメリカなのだが、人間の描き方、ハードボイルドなストーリー展開は、英国の警察モノのムードに近いと思った。脚本は英国の人ではないかと思ったが、そのとおり、マクドナーは英国とアイルランドの2つの国籍をもっている人だった。他の作品も見てみたくなる。

 ともあれ、ストーリーは面白いし、ラストにも含みがあり、救いがある。なんでも善悪、白黒はっきりして、インターネットで検索すれば、あるいは、AIを使えば、すぐに解答がわかるような気になりがちだが、世の中、なんでも白黒判然として、わかるわけではない、と言っているようにも思える映画。ミステリーとしての面白さで一気に見てしまうが、いろいろな読み方ができる、奥の深い映画でもある。黒澤明は「映画には一に本(脚本)」と言ったというが、本当にそうだなあ、と。

 マクドナーの監督・脚本作品には、こんなものが...

セブン・サイコパス(字幕版)
 

 見てみるかなあ。