岩井克人「貨幣論」

貨幣論 (ちくま学芸文庫)

貨幣論 (ちくま学芸文庫)

二十一世紀の資本主義論 ずいぶん前に買ったのだが、本棚に置きっぱなしになっていたのを久々取り出して読み出したら、今度はすんなり読めてしまった。「貨幣とは何か」ーー魅惑的なテーマだなあ。経済学であり、心理学であり、言語学であり、社会学であり、と言った感じ。この本はマルクスの「資本論」を読み込むところから始まるのだが、マルクスが資本主義の危機(恐慌)を需要不足(モノから貨幣へ)を想定しているの対し、貨幣論からみれば、真の危機はハイパーインフレーションにあるという。なるほどぉ。貨幣が信認を失い、貨幣が単なるモノに堕し、貨幣が貨幣として機能しなくなったときに超インフレがやってくる。資本も何も意味を失う。貨幣が堕落したとき、どのように再生するのか。第1次大戦後のドイツのハイパーインフレーションを止めたのは、レンテンマルクとドルの交換比率の固定だったという。ドルへの信認で、マルクへの信認を復活させたわけ。で、1998年に書かれた「文庫版への後記」を読んでいたら、どっきりする。

世界化された資本主義に真の危機があるとしたら、世界中のひとびとがドルから遁走をはじめ、ドルを基軸通貨とする貿易金融体制が分裂解体してしまう事態にほかならないことを意味している。現在、アメリカ経済は未曾有の繁栄を謳歌し、その主導のもとに、世界資本主義はいよいよその勢力範囲を拡大している。わたしはまさにこのようなときにこそ、資本主義の底流にある本質的な不安定性についての思考を進めておく必要があると思っているのである。

 う〜ん。もともと、この本を本棚から取り出したのは、サブプライム問題をきっかけにドルの信認が揺らぎ始めたため、ドルって何?、貨幣って何なの?という疑問がきっかけだった。で、本の最後に最後に、いまの経済の最大の不安定要因として心配されていることが書いてあった。岩井氏はいま、この事態をどう見ているのだろう。続けて、「21世紀の資本主義論」を読んでみるべきなんだろうな。