- 作者: マークエリオット,Marc Eliot,笹森みわこ,早川麻百合
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2010/01/01
- メディア: 単行本
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この伝記を読むと、イーストウッドというのは極めて私的な映画作家であると思う。映画自体はフィクションで、虚構の世界の人物に昇華されているのだが、過去に非道の限りを尽くした「許されざる者」のウィリアム・マニーも、過去の所業の悪夢に苦しみ、うまく人間関係をつくれないまま老いに直面した「グラン・トリノ」のウォルト・コワルスキーにしても、イーストウッド個人が反映しているところがある。イーストウッドの人生の年輪がそのまま映画の重みになっていく。
しかし、読んでいて、それでもわからなかったのは、「許されざる者」「グラン・トリノ」、それに「ミリオンダラー・ベイビー」「ミスティック・リバー」といった映画に流れる暗さ。本人はスターだったし、テレビ俳優から映画に移行するのに苦労したとはいっても、私生活では好き勝手に暮らしていたように見える。それで、どうして、あれだけダークな世界に固執するのか。大恐慌時代に育ったことに関係があるのか。心のなかに闇があるのか。あるいは、どこかで闇を見たのか。そのあたりに興味があって伝記を読んでみたのだが、その謎は解けなかった。
で、この本、各作品を興行収入で評価しているところもあり、そこが米国風とも思えた。稼げなければ、次の作品がつくれなくなってしまうから、大切なことではあるのだが。「硫黄島からの手紙」も敵側(日本側)の視点から映画を創るという構想と意欲は買うが、興行的には成功しなかったという評価だった。で、さらにいうと、こうした映画をつくる発想がどうして出てくるのかもイーストウッドの謎だったのだが。単純には、マカロニ・ウェスタンで成功を掴んだ国際人というところになるのかもしれないけど。