デビッド・カークパトリック『フェイスブック――若き天才の野望』
フェイスブック 若き天才の野望 (5億人をつなぐソーシャルネットワークはこう生まれた)
- 作者: デビッド・カークパトリック,小林弘人解説,滑川海彦,高橋信夫
- 出版社/メーカー: 日経BP社
- 発売日: 2011/01/13
- メディア: 単行本
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フェイスブックに関する本としては、映画「ソーシャル・ネットワーク」の原作にもなったベン・メズリックの『フェイスブック』がある。こちらもこちらで、インターネット・ベンチャー時代の青春物語として面白いのだが、ビジネスやITの視点から見たフェイスブックを知るには、デビッド・カークパトリックの本のほうが圧倒的に優れている。メズリックの本は、フェイスブックの創業者兼CEOであるマーク・ザッカーバーグに取材できなかったのだが、そのあたりもザッカーバークをはじめフェイスブックの関係者に徹底取材しているカークパトリックの本との大きな差になっている。
メズリックとカークパトリックとでは、同じフェイスブックを見るのでも、関心が違ったのかもしれない。メズリックは、フェイスブックそのものよりも起業からハーバードの同窓生たちの訴訟合戦に至る現代の若者たちの生態に興味があったのだろう。これに対して、カークパトリックはビジネスの視点からフェイスブックを考える。ITの歴史を熟知しているだけに、ビジネスや社会の中でのフェイスブックの位置をわかりやすく描いて見せる。同じ会社を描いても、「週刊現代」か「日経ビジネス」か、一般週刊誌かビジネス誌かという差といってもいいかもしれない。
ともあれ、カークパトリックの本はフェイスブックを知る上での必読書といっていい。マーク・ザッカーバーグについてはこれまで、今ひとつ、そのすごさがわからなかったのだが、この本を読んで、わかった。ソーシャルネットワークをプラットホームビジネスといち早く定義した、その先見性が光る。コミュニケーション・プラットホームとして機能するには実名でなければならないと、そこに固執した。ソーシャルメディアではなくて、ソーシャルプラットホームとしてのテクノロジーを提供する会社と自己規定し、そのために必要な機能だけにそぎ落とし、ユーザビリティを追求したことが恐ろしいばかりの強さを生み出した。
マイスペースとも、フレンドスターとも、オーカットとも違うし、ミクシーやグリーとも違う。気がついてみたら、世界に5億人の(最近、6億人を超えたともいわれる)実名コミュニケーション・プラットホームが出来ていたというのは衝撃的な話。いまや米国の若者はメールを使わなくなっているともいわれる。フェイスブックを使えればいい。知り合いのメアドが変わろうが何しようが、自分でメアドを登録し直す必要もない。フェイスブックで探せば、相手に連絡をとれる。それが一般化した世界が生み出されているし、それがザッカーバーグが構想した世界でもあった。
広告の世界で言えば、グーグルは欲望の先にあるものを「検索」を通じて提示するが、フェイスブックは個人の嗜好や交友関係の情報から欲望を生み出すきっかけを提供する可能性を持つ。より詳細なターゲット広告を打つことができる。グーグルではブランド広告は打てないが、フェイスブックではできるという話が出てくる。しかも、そこで利用される個人情報は、個人が自分の意思で登録したもの。これは既存のメディアから見れば、悪夢のような話。いまやフェイスブックには500億ドルの市場価値が付くのもわかる。会員5億人でひとり100ドルの価値ということだから。6億人にならば、100ドルを切っている。
この本を読むと、ザッカーバーグの天才ぶりがわかるが、イメージとしてはビル・ゲイツをさらに暗くし、饒舌なスティーブ・ジョブズを極端に寡黙にした感じ。内省的な一方で、頭の切れる若いエンジニアらしい傲慢さがあるので、誤解を生むところもあるのだろう。実際、知的傲慢から生まれたような失敗もあった。それがさらに負の印象を強めてしまうところもあったと思う。個人の姿が公開されるほど、個人の行動も正しいものになるというのがザッカーバーグの思想らしいが、このさじ加減はむずかしく、これまで同様、世間との軋轢を生み続けるだろうなあ。
成功する会社には、さまざまな幸運がある。それはフェイスブックも例外ではなくて、ザッカーバーグが早い段階で、ナップスターを創業したショーン・パーカーやネットスケープを創ったマーク・アンドリーセンと出会い、メンターにできたことは、その好例といえる。彼らから若い起業家が犯しがちな過ちを教えられている。資金調達方法、人脈の広げ方を含め、こうした助言者たちがいなければ、早い段階で大手企業に売却するか、ベンチャーキャピタルのシナリオに沿った株式公開で独自性を失い、手っ取り早く金持ちにはなることはできただろうが、ここまで大化けすることはなかったかもしれない。ショーン・パーカーはベン・メズリックの本で描かれている以上に、フェイスブックのビジネスに大きな役割を果たしていることがわかる。
巨大な存在になったとはいえ、まだまだ若い発展途上の会社で、邪悪な存在になってしまうリスクも持っている。2012年には株式公開するようだし、さらに試行錯誤が続きそう。あと5年もしたら、この続編が読みたくなるかもしれない。いろいろと教えられる本でした。
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