高橋洋一『この金融政策が日本経済を救う』

この金融政策が日本経済を救う (光文社新書)

この金融政策が日本経済を救う (光文社新書)

 「この金融政策」とは、現在、安倍政権が取ろうとしているインフレ目標を設定し、デフレ脱却のために大胆な金融緩和を実行するという政策。この本は2008年に出たものだが、それから5年。「この金融政策」は日銀によって排除され、民主党政権も否定したものだが、結局、効果的なデフレ対策は打てなかったわけだなあ。そして、「この金融政策」はバーナンキFRB議長の理論がベースになっていたりもするのだが、実際にリーマン・ショックに際し、FRBは「この金融政策」をとり、米国がデフレ経済化するのを防いだりしている。
 内容は、これまで高橋洋一氏がいろいろなところで主張している意見と変わらないが、金融政策に的を絞った形でまとめられており、安倍新政権の金融政策が何を狙っているのかを知るのに、とても参考になる本となっている。目次で内容を見ると...

プロローグ
第1章 金融政策とは
第2章 金融政策の理論的根拠
第3章 物価とはーー原油高騰で物価は上がるのか?
第4章 インフレ目標
第5章 金融政策と株価の関係
第6章 金融政策と為替
エピローグーー世界同時不況にどう立ち向かうのか

 第5章、第6章を読むと、インフレ目標・金融緩和政策が、株高・円安を生み出すことがわかり、そう考えると、安倍新政権が明確になってからのマーケットの動きしごく当然の動きであることがわかる。あとは、タイムラグはあるのだろうが、実体経済に効果が出てくるかどうかだなあ。
 で、印象に残ったところをいくつか抜き書きすると...。
 まず、リーマン・ショック後の危機に際し、欧米、中国、アラブ首長国連邦、香港、クウェートなどの中央銀行が一斉に利下げに実施したのに、日本だけは当初、利下げに加わらなかったことについて

 麻生首相も金融政策は効果がないと思っているようで、財政政策一辺倒です。もしかして今も固定相場制だと勘違いしているのでしょうか。

 リーマン・ショック当時の首相は、いま、財務大臣の麻生氏だったのだな。このあたりを読むと、安倍首相がインフレ目標を強く主張しているのに、麻生氏は、インフレ目標に消極的な日銀にどこか理解を示しているようなところがあるのも、わかる。金融政策について、それほど信頼していないのかもしれない。その後、宗旨替えをしたのか、それとも、今は安倍政権だから、と思っているのか、「この金融政策」を遂行する上で麻生財務相は意外と不安要因なのかもしれないなあ。抵抗勢力になったりして。
 一方、インフレ目標、そして日銀の独立性については、こんな話も出ている。

独立性には、目標の独立性と手段の独立性があって、日銀には手段の独立性しかないという話。これを安倍さんは完璧に理解しました。ですから、次の日銀総裁は、すべてにおいて納得できる人にしようということで決まっていました。次の総裁は公の場で政策について宣言することになっていたんです。ところが、皆さんもご存じのように、ああいう形で急に辞められたので、この話も立ち消えになってしまいました。日銀を変える唯一のチャンスだと思っていただけに、かえすがえすも残念です。あの参院選の結果が違えば、いまの日本の状況もまったく違っていたわけですから。

 なるほどなあ。メディアは「アベノミクス」とか、突然出てきたかのように語っているけど、金融政策についていえば、実際には5年前から、やろうとしていたことに今、再び、取り組んでいるのだな。昨年の衆院選に勝利したことで、今年の日銀総裁改選がセカンド・チャンスになるわけだな。
 金融緩和の効果が出てくる時期について...

 金融が悪くなるとそれが実体経済にも悪影響を及ぼします。半年から1年は悪くなります。(米国は)いま金融緩和を猛烈にやっていますので、その効果が出るのは1年後くらいでしょうか。ですから、おそらく1年は悪くて、1〜2年後ぐらいからちょっと効果が出始め、3〜4年後には良くなっていくのではないでしょうか。

 これは米国のバーナンキFRBの金融緩和政策についての指摘だが、その後の動きはほぼ、こんな感じだったので、日本の場合も同じような時間軸で考えておくといいのだろうなあ。
 そんなわけで、5年前の本だが、2013年を考えるのに参考になる。