岩田規久男編『まずデフレをとめよ』

まずデフレをとめよ

まずデフレをとめよ

 デフレ脱却の経済政策として「インフレ目標」の導入を主張する学者の人たちの論文集。安倍首相が提唱している「インフレ目標」論に便乗した本ではない。出版は2003年2月...。いまから10年前。ここでの主張は、日銀に退けられたわけだが、その間に、日本はデフレにどっぷりつかってしまった。そして、この本で紹介されている大恐慌研究の権威であるベン・バーナンキはその後、FRB議長に就任し、リーマン・ショック後のデフレの危機に際し、自らの理論に忠実に、インフレ目標論、大規模金融緩和に踏み切り、最悪の事態を回避した。現実がこの本の主張を裏付けているように見えるが、どうなんだろう。
 今回も、インフレ目標論を今度も潰そうと、日銀は動くのだろうか。しかし、インフレ目標論の人たちが中央銀行の金融政策の有効性を主張し、金融政策の責任者である日銀が金融政策に役に立たないと主張するのも変な構図だなあ。自分たちの組織の存在意義を自ら否定しているみたいな...。デフレとの闘争に、できることはすべてやるという覚悟が白川総裁にはバーナンキ議長ほどには見えないのだけど...。
 で、目次で内容を見ると...

第1章 金融政策を大転換せよ(岩田規久男
第2章 デフレはどれぐらい日本経済を蝕んでいるか(岡田靖
第3章 新日銀法下での政策決定と論争地図(安達誠司
第4章 構造問題とデフレーション(野口旭)
第5章 歴史に学ぶ 大恐慌と昭和恐慌の教えるもの(若田部昌澄)
第6章 ゼロン金利下でも有効な金融政策(高橋洋一
第7章 日銀の独立性と決定権(野口旭)

 高橋氏の第6章は、同氏の『この金融政策が日本経済を救う』と重なり合っているところが多い。本全体を通じて、インフレ目標の導入を主張すると同時に、日銀を中心としたインフレ目標反対論の主張に一つひとつ反論している。その意味で、10年前と古い本だが、インフレ目標論に関する理解を深めてくれる。と同時に、デフレに陥った日本経済も、この議論も、10年前のまま凍りついてしまっている気がする。これもまた失われた10年だったのだなあ(20年か)。
 で、印象に残ったところを抜き書きすると...
 なぜデフレ脱却が必要か、という項目を整理すると...

(1)デフレでは産業構造の調整は進まない
(2)不良債権問題も進まない
(3)財政危機が深刻化
(4)銀行危機から脱却できない
(5)生保の経営危機につながる
(6)年金制度も破綻の危機に

 インフレ目標は、今のマーケットを見てもわかるように、まず株高となって現れる(それをバブルという人もいるかもしれないが、ピーク時の株価の4分の1の水準で、それを言うのは...と思うけど)。それは当然、生保や年金の資産を傷つける。この本が出てから10年。現状を考えると、この本の主張が身にしみるなあ。政府・日銀は自分たちで、年金・生保を破壊してきた面もある。自傷行為といえるのかも。
 で、ここで主張している日銀のインフレ目標は...

インフレ目標の下限を1%、上限を3%程度に設定する。しかし、インフレ目標を設定しても、いつまでに達成するのかを明示しなくては、誰も金融政策を信用しない。過去の歴史的事例をみると、金融政策をはっきりとリフレ政策にレジーム転換すれば、1年以内にデフレから脱却できると考えられる。したがって、日銀は1年以内(長くても2年以内)にインフレ目標を達成すると宣言し、そのためには、できることはなんでもやるという姿勢、すなわち、インフレ目標への強いコミットメントを鮮明にする必要がある。

 なるほど。安倍首相の「インフレ目標」論には、この考えが基本にあるのだな。なお、この文章の前段に「インフレ目標を採用している国は、1〜3%の間にインフレ目標を設定し、実際の物価上昇率を、2.5%程度に維持しながら、日本よりも高い2〜4%程度の実質経済成長率を長期的に維持してきた。