ドミニック・ローホー『シンプルを極める』

シンプルを極める

シンプルを極める

 『捨てる技術』のフランス版といった感じの本。フランスだから、単なる「技術」ではなく、「捨てる哲学」「捨てる精神」といってもいいような思想から入っていく。資本主義、高度消費社会、物欲が行き着くところまで行くと、持たざるシンプルさに人は惹かれるのかもしれない。その意味で、ドミニック・ローホーの「シンプル」本が書店に平積みにされているのも、わかる。持たざること、空白こそが最も洗練された先端的なファッションになるのだなあ。
 目次で内容をみると...

第1章 モノを排除するための妙薬
 1.日常生活のなかで
 2.メンタル面において
 3.もっと生きる喜びを
第2章 身辺整理、事始め
 1.アイデンティティに沿った分別
 2.様々な壁を乗り越えて
第3章 いざ、実践!
 1.住まいに関するモノの棚卸し
 2.テクニック
 3.すっきり片づいた後で

 第3章はまさに「捨てる技術」。モノを持たない生活というのは旅人に似ている。筆者の持ち物は「トランク2つにノートブックパソコン1台」という。まあ、そのぐらいで人生を旅をしていくのに十分かもしれない。いまや世界どこでもインターネットにアクセスできるだけに、テレビ1台、パソコンと携帯電話1台あれば、情報化社会も生きていけるという。電話にしても固定か携帯か各1台。女性読者を想定した本でもあるので、家にいることが多いのならば、固定でいいという主張だった。携帯は、電話をかけてくる相手にとって便利なものというのだ。確かに。
 ともあれ、できるだけ持つな、持つならば、最高品質のものを、という思想のように見えた。過去に執着しないために、思い出の品も(写真も手紙も)取っておく必要はないという徹底ぶり。思い出は自分の頭と心の中にあればいいという考え方のようだった。そこがなかなか難しいのだが...。本も整理が難しいものの一つだが、これについては、こんなノウハウが...

 始末できない本を段ボールに入れ、1年間だけ持ちます。その間段ボール箱を開けて本を取り出すことがなかったら、その箱は封じたまま古本屋か図書館に寄付します。

 これはいいかもしれない。「手元には自分の参考図書、美術書、あるいは自分の本質を表している本を数冊残しておくだけにします」。なるほど、そうした生活もいいのかもしれない。最近は図書館にある本は整理してしまうことにしているが(最近はインターネットで図書館の状況はすぐチェックできるのがありがたい)、もっと持たざる生活があるのかもしれない。
 持ち物は「残す」「贈る」「売る」「捨てる」のいずれかだというけど、棚卸をしていくことが必要なのだな。それは過去へのこだわりを捨て、前を向くことでもあるというのが、この本の主張でもある。みんな、捨てなくちゃいけないと思っているのだが、なかなか、その踏ん切りがつかない。『捨てる技術』に「エスプリ」を加味して背中を押してくれるのが、この本といっていいのだろう。