新型コロナ情報戦、21世紀の韓国と20世紀の日本

 2月ぐらいから韓国と日本の新型コロナウィルスの感染者情報を見ていて気になっていることがあった。韓国は当時、1日2回、検査数、陽性、陰性、検査中といった情報を定期的に発表していた。一方、日本は、患者が発見されるごとに各自治体が公表し、国が定期的にとりまとめて発表するでもない。全体像がはっきりせず、検査数と感染者数もわかりづらい。厚生省の発表にしても休日は休んだりしていた(韓国は休日でも提示に発表していた)。メディアがまとめる数字も各社独自に集計している感じでバラバラだったりする。そして、この状況はいまだに続いている。

 こうした様子を見ていて感じたのは、韓国のデータの迅速さ、精緻さの背景にはデータを集めるネットワーク、システムがあるのではないかということだった。そうでなければ、全国で何万件も実施した検査の状況を把握できるとは思えない。一方、日本のグダグダぶりを見ていて思い浮かぶのは、昔ながらの方法、電話とか、ファクスとかで連絡を取り合って、どこかの部署がポチポチ、データを入力しているという風景だった。新型コロナウィルスとの戦いで、日韓の情報インフラが大きく乖離しているのではないか。そう思えてならなかった。

 で、この予想は不幸なことにほぼあたっていたようだ。ウォール・ストリート・ジャーナルの記事を見ていたら...

韓国の検査ネットワークは2015年の中東呼吸器症候群(MERS)流行を教訓に整備され、今年1月末の新型ウイルス感染拡大時に始動した。(略)仕組みは統一されていて、検査機関は同じ検査機器を使用し、同じ訓練を行い、同じ情報に基づいて判断を下す。

 午前8時になると、国内の全ての検査機関が検査結果を共通のデータベースにアップロードする。全国の公立・私立の病院は患者の検査結果を見て、韓国疾病管理予防センターに報告する。病院は感染症学会の専門家が作成したオンライン上のディレクトリに検査の詳細をアップロードする。(略)「このシステムははっきりしない検査結果に起因する問題を共有するためのネットワークでもある」

新型コロナ、韓国の大量検査支える仕組みとは - WSJ

  やはり韓国には検査ネットワークのシステムがあったのだ。

  一方、日本。昨日、毎日新聞を読んでいたら...

ある公立病院に勤務する医師だという人がツイッター上に投稿したツイートである。「もう止めようよ…。手書きの発生届…(中略)コロナも手書きでFAX…。もう止めようよ…。手書きの発生届…。こんなん昭和ですよ…(後略)」

 感染症法では、医師は新型コロナなどの患者を確認した場合、すぐに地域の保健所(各都道府県)に「発生届」を出して報告することになっている。問題は、これがお役所が定めた書式の用紙に、医師らが手書きし、保健所などにファクスしなければならない、ということなのだ。

「昭和のオフィスか」 最前線の医療現場に強いられる「手書きでファクス」 新型コロナ - 毎日新聞

 あああ~、ファクスだった....。やっぱり...。しかも手書き...。パソコンに触らない人をIT担当相にする国だからなあ...。新型コロナウィルスとの戦い、情報面で言えば、21世紀の韓国と20世紀の日本といった感じ...。

 ビル・ゲイツは、2015年のTEDでパンデミックを核戦争以上の世界的脅威であると警告していたが、このなかでも、エボラ熱の教訓として、感染症の拡大スピードに対して紙のレポートでやっていたら間に合わないという話をしていた。


The next outbreak? We’re not ready | Bill Gates

 韓国はMERSの経験に加えて、こうした警告にも耳を傾けていたのだろうか。

 備えあれば憂いなし、というけど、いまの日本にとってはその反対で、検査体制の遅れだけでなく、情報収集でも遅れているんだなあ。しかし、ワクチンが開発されるまでは、新型コロナウィルスのリスクと共生していくわけで、ネットワークの構築は不可欠なんだろう。何しろ現状が把握できない。緊急事態宣言の解除にしても、何を参考にするんだろう。

 しかし、検査ネットワークでは立ちくれている日本も、緊急地震速報など地震検知ネットワークなんかでは先進的な体制をつくりあげているわけで、本気出せば、できるんだろう。本気を出せば...。いつ出すかが問題だけど...。何しろ最近は資料の隠蔽、改ざん相次ぎ、データや統計に関する意識が低下しているからなあ...。覚醒してほしいものです。

 日本は変わり身の速さと外国の知識を吸収・消化するのが得意なお国柄だから、この原点に回帰して、どこの国でも良いもんは積極的に取り入れれて、よりよいものに改善していけばいいんだろう。それにしても、IT化では韓国、台湾と差がついてしまったなあ...。

 情報軽視の体質は今も続いているのだろうか。「情報なき国家の悲劇」は令和も続くのだろうか。

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