「新潮45」編集部『凶悪ーーある死刑囚の告発』

凶悪―ある死刑囚の告発―

凶悪―ある死刑囚の告発―

冷血 (新潮文庫) 最近、映画化されたというニュースをきっかけに、その原作に興味を持ち、読んでみた。恐ろしい実話。死刑囚が警察の知らない殺人事件に関与した、そして、その主犯格の男はいまも、のうのうと社会で暮らしていると告発する。その情報を追い、事件を白日のもとにさらした雑誌記者のルポ。この記事をきっかけに、警察が動き、ついに主犯格の男、「先生」は逮捕される。ミステリーのような面白さにあるし、トルーマン・カポーティの『冷血』のように二人の男が出会ったことで、暴力が暴走していく恐ろしさもある。
 そして、それ以上に暗澹たる気分にさせるのは、貧困ビジネスのように、生活に困った人、生活能力の低い人を次々と冷酷に食い物にしていくこと。尼崎の連続殺人事件にも似たようなところがある。弱肉強食というか、弱者を人間とも思わず、カネに変えていく、その心情が空寒い。そして、この事件では発覚したわけだが、社会の日が当たらないところで、誰も知らないうちに終わっていた可能性もあること。この告発にしても、最初は3件、他にもいくつかの事件が告発されながら、立件されたのは1件だけだったこと。それ以外は「完全犯罪」と言ってもいいわけで、日本の闇の深さを感じさせる。
 映画「凶悪」の公式サイトはこちら。
 http://www.kyouaku.com/
 読んだのはKindle版で、文庫本はこちら。
凶悪―ある死刑囚の告発 (新潮文庫)

凶悪―ある死刑囚の告発 (新潮文庫)