佐藤優「国家の罠」

国家の罠 外務省のラスプーチンと呼ばれて

国家の罠 外務省のラスプーチンと呼ばれて

 副題に「外務省のラスプーチンと呼ばれて」。鈴木宗男事件に絡んで逮捕された外務官僚の手記。東京地検特捜部の「国策捜査」と同時に、対ロシア外交の内幕を現場から描く。逮捕者の立場から、これほど詳細に検察官とのやりとりが再現されることはないだろう。それだけに帯に「外務省、検察庁を震撼させる衝撃の内幕手記」というのもわかる。この本を読むと、佐藤氏がいかに優秀な外務省の情報分析官であったかがわかる。しかし、優秀な情報分析官であるが故に、だんだん、この本に書かれていることは事実なのだろうが、微妙に読者を操作・誘導しているようなところもあるように思えてくる。語られたことは事実でも、語られないこと、また語り方によって、受ける人の印象は変わる。情報の専門家ならば、そこは百も承知だろう。そうした点も含めて、すごい本で、一気に読んでしまった。
 それにしても佐藤氏は強い人だ。これだけの拘置に耐えられるインテリはそうはいないだろう。知的能力はきわめて高いことが文章からわかる。一方で、本人は否定しているが、プライドも高い。この本、読後感からいうと、非難されているのは検察よりも外務省という感じがする。大胆に「国策捜査」を批判しているようで、最大の悪を外務省にしている点で、このあたりも情報分析官ならではだろうか。