ユン・チアン「ワイルド・スワン」中

ワイルド・スワン(中) (講談社文庫)

ワイルド・スワン(中) (講談社文庫)

 共産党の「反右」粛清、大飢饉、そして文化大革命へと続く。毛沢東の個人崇拝を利用した粛清のすさまじさは想像以上だった。文化大革命は暴力の時代だった。大躍進・大飢饉のころの中国の風景を著者はこう書く。

毛沢東時代の中国のように情報が握りつぶされたり書きかえられたりする独裁社会では、一般の民衆が自分の体験や知識のほうを信じようとしても、無理なのである。個人個人の冷静な思考など吹き飛ばしてしまう熱狂が、国じゅうを包んでいた。人々はしだいに現実から目をそむけて、毛主席のことばを盲信する道を選びはじめた。熱狂の波に飲まれたほうが、ずっと楽に生きられるからだ。立ち止まって慎重に考え直したりしていると、やっかいごとに巻き込まれるのがおちだ。

 熱狂の時代に、自分を保つのは至難なんだなあ。

ことばというものが、意味を持たなくなっていった。ことばは現実から乖離し、裏付けを失い、本心とは似ても似つかぬものになっていった。だれも人のことばを本気で信じなくなったから、うそ偽りを語っても良心が痛まなくなった。

 これは中国だけではなくて、どこの社会でも起こり得ることだなあ。