マルジャン・サラトビ「ペルセポリス」I

ペルセポリスI イランの少女マルジ

ペルセポリスI イランの少女マルジ

 「Newsweek日本語版」で、グラフィック小説の代表として紹介されているのを見て興味を持ち、読んだ。イラン革命下の少女時代の回想記。話は、パーレビ時代にもさかのぼり、一族や周囲の人々の数奇な運命が語られる。イラン版の「ワイルド・スワン」だな、と思う。政治にしても、宗教にしても、「正義」の時代ほど、不寛容で、残酷なものはないのかもしれない。吉田満が文語体でしか、戦艦大和の最期に際した自らの戦争体験を語れなかったように、サラトビもコミック(グラフィック小説)という形式でしか、自分の過去を語れなかったのだろう。あまりにも生々しい死と哀しみを日常的な言葉によって描くことはつらいから。コミックにすることで、ユーモアを交えて、ちょっと距離を置いて、厳しい現実と当時の心情を赤裸々に描くことが可能になったのだろう。悲劇的な状況で起きる、ときとして喜劇的な出来事こそ、人生と運命の不可思議さ、不条理を象徴しているのかもしれない。