岸田一郎「LEONの秘密と舞台裏」

LEON (レオン) 2005年 11月号 男性ライフスタイル誌で、一人勝ち状態の「LEON」の編集長の本。「モテる ちょい不良(ワル)オヤジ」とか、これまでの常識をぶち破った、「えっ」というような特集で、一流ブランドをなぎ倒していった。最新号も「真っ当はオヤジの天敵」とか言っているけど、雑誌ビジネス論として極めて真っ当な本。出版業界の現状に関する、いろいろと面白い言葉が登場する。例えば、「出版原理主義」。

(「LEON」以前の)当時の主婦と生活社は、「雑誌というのは多くの部数を確保して部数を上げ、販売収入で儲ける」、そして「部数がたくさん出れば、必然的に広告も入ってくるであろう」というビジネスモデルを持っていました。これは、もっとも古典的な出版ビジネスの手法といえます。(中略)私は、そうした大部数を第一目的に掲げたビジネスモデルを、個人的に「出版原理主義」と呼んでいます。

 もう一つは、雑誌の「記者クラブ制」。ファッションメーカーの情報に単純に依存し、フリーランスの編集者、カメラマン、スタイリスト、デザイナーに丸投げしてつくるファッション誌、ライフスタイル誌の編集方法について…

 こうしたやり方を、私は皮肉を込めて雑誌の「記者クラブ制」と呼んでいます。雑誌媒体という利権さえ確保してしまえば、ただ座っていても向こうから情報がどんどん集まってくる。その勝手に集まってきた情報の助詞と形容詞だけを書き換えて、誌面に反映して完結する。つまるところ、ただの情報の伝達屋に成り下がっている雑誌があまりにも多いのです。
 また、そうしたことを繰り返していくうちに、仕事をお願いするスタッフも各雑誌がどれも似通った人になっていってしまう。「売れている雑誌のスタッフに頼めば、うちの本も売れるだろう」というわけです。それは大いなる幻影にすぎないのですが、横並びの発想から逃れられない日本社会では、こうしたやり方や考え方が依然として説得力を持っていることもまた事実なのです。

 そうか。それで同じ時期に、同じような企画の雑誌が並ぶことになるのか。だから、「モテるオヤジ」とか、「ちょい不良(ワル)」とか、独自の視点で情報を編集する「LEON」が斬新にみえるというわけか。

 「売上げ」と「利益」というのはまったく別のものです。売上げばかりがいくら立ったところで、その収益構造が貧弱だと、最終的には赤字になってしまいます。モノをつくる以上は、そうした収支に対して、きちんとした読みができることが求められるのです。
 ところが、そうした読みができる人間が、出版界ではあまりにも不足していた。(中略)出版界に、マスコミ特有の権威主義に依存して「みんなに教えてあげる」という意識で雑誌を作っていたような人があまりにも多かった、という事実になによりも原因があります。毎年毎年休刊する雑誌が山のようにあり、布教といわれながらなかなか改革の機運が目覚めないのは、やはり出版業界が他の業界に比べて、ビジネスの面で「甘い世界」であるからといわざるを得ません。
 そうした甘えが許されてきたのは、出版界が「再販制度」と日本独自の取次システムによって、事実上閉ざされた業界だったからともいえるかもしれません。誰でも出版業に参入できるわけではなく、始めるには「出版コード」「雑誌コード」といった一種の「親方株」のようなものを手に入れることが必要で、本当の意味での自由競争がこれまで行われてこなかった。そのために、古い体質が何十年も温存されてきた。そういった事情も背景にはあるのではないかと思います。

 なるほどぉ。真っ当だなあ。気位が高いのがマスコミの特徴なんだろうか。いまやインターネット系の大攻勢の前に揺れているけど…。ともあれ、面白い本でした。