「職業としての政治」から

 政治とは、情熱と判断力の二つを駆使しながら、堅い板に力をこめてじわっじわっと穴をくり貫いていく作業である。もしこの世の中で不可能事を目指して粘り強くアタックしないようでは、およそ可能なことの達成も覚束ないというのは、まったく正しく、あらゆる歴史上の経験がこれを証明している。しかし、これをなしうる人は指導者でなければならない。いや指導者であるだけではなく、ーーはなはだ素朴な意味でのーー英雄でなければならない。そして指導者や英雄でない場合でも、人はどんな希望の挫折にもめげない堅い意志でいますぐ武装する必要がある。そうでないと、いま、可能なことの貫徹もできないであろう。自分が世間に対して捧げようとするものに比べて、現実の世の中がーー自分の立場からみてーーどんなに愚かであり、卑俗であっても、断じてくじけない人間、どんな事態に直面しても「それにもかかわらず!」と言い切る自信のある人間、そういう人間だけが政治への「天職」を持つ。
マックス・ヴェーバー著、脇圭平訳
「職業としての政治」(岩波文庫

 「職業としての政治」は、心に突き刺さる言葉の多い名著だが、この締めのフレーズは、政治家だけではなく、経営者にも通じる箴言。周りを睥睨してバカにしていても、組織は変わらない。評論家との違いが、ここにあるんだけど、政界でも、官界でも、ビジネスの世界でも、ともすると、変革者を気取りながら、周囲をバカにするところで終わってしまいがちな人が多い。アタマのイイ人ほど、そうなりがち。