ウォーラースティンの基軸通貨論、あるいは米国衰退論

 昨日の日経朝刊「経済教室」の「再考・基軸通貨ーードルの行方」というシリーズにイマニュエル・ウォーラースティンが寄稿していた。さすがにウォーラースティン、なるほどというフレーズが出てくる。米国は、覇権の衰退期に3種類の政策で、これを食い止めようとしたという。(1)西欧と日本に衛星国ではなく、「パートナー」の地位を提供(そのひとつがサミット)、(2)いわゆる「開発主義」から「新自由主義的グローバリゼーション」への政策転換、(3)核拡散防止条約(NPT)=国連安全保障理事会常任理事国の五大国以外が核兵器を持てないようにする措置=がそれで、その結果、「これらの政策は部分的にしか成功しなかったが、米国のパワーの衰退を遅らせる効果はあった」という。で、この時代、「利益獲得の主な手段を投機に頼るようになり、債務が急膨張した」ーーそうだよなあ。で、このあとのブッシュ政権の分析が白眉。

 二〇〇一年に誕生したブッシュ(子)政権は、ネオコンと呼ばれる新保守主義集団を重用する。彼らは、米国の衰退を地政学的にも経済的にも逆転できる自信を持っていた。問題は米国の指導力の低下にあり、おの解決には米国単独で軍事政策を推進すべきだと主張した。米億の無敵の力を見せつけ、他国を威圧して米国の要求に従わせることができるという。

 そうだよなあ。やっぱり、そう思っていたんだよなあ、学者が冷静に分析しても。で、

 彼らの主張は、イラク侵攻と、全米人口の一%にすぎない最富裕層への多額の戻し税という二つの方法で実現した。

 超単純な人たちだったんだよね。

 どちらも非常に高くつく政策であり、その資金は、米国債を売って借金する方法でまかなわれた。

 あらら、私たち日本人が貢いでいたわけだ。アジアの輸出国も、中東の産油国もそうだけど。しかし、その帰結は・・・

 衰退を食い止め、盛り返そうとする試みは、完全な失敗に終わった。地政学的には、イラク戦争は基本的な武器もないゲリラとの戦いと化し、目を覆う敗戦となった。他国を威圧して従わせる政策も、西欧の米国離れが一段と進み、東アジアも同じ方向にあるという逆の結果を招いている。

 おごれる者は久しからず、ということだなあ。そして

 米国のこうした経済的な重圧はますます深刻化してドルが下落。世界の準備通貨としての地位を失う危険性が迫ってきた。

 ドル危機だなあ。危機に本当になるかどうかは別にして、少なくともドル不安の時代だなあ。ウォーラースティンは「米国は、数ある有力国の一つになりつつある」という。で、最後は、こう締める。

 かつてオルブライト元国務長官は、ひどく誤解を招く発言の中で、米国は世界にとって「必要不可欠な国だ」と述べた。だがもはや米国がそうだとはいえなくなっている。