野口武彦「幕末バトル・ロワイヤル 井伊直弼の首」

井伊直弼の首―幕末バトル・ロワイヤル (新潮新書)

井伊直弼の首―幕末バトル・ロワイヤル (新潮新書)

 「幕末バトル・ロワイヤル」シリーズの第2作。「桜田門外の変」、必ずしも日米修好通商条約をめぐる外向的な対立とばかりはいえず、徳川将軍職をめぐる徳川斉昭水戸藩)と紀州徳川家を推す井伊直弼の対立という内政問題でもある。むしろ、思いっ切り内向きの暗闘が底流にある。一方で、地震、疫病(コレラ)など天災・人災が社会的な不安を増幅し、日米修好通商条約の為替・通貨の規定から生みだされたハイパーインフレが武士の生活を破壊し、支配階級に亀裂を生じさせる。革命って、こうして生まれていくのだなあ。しかし、いまでいえば、首相が暗殺されたに等しい「桜田門外の変」を病死と取り扱う欺瞞は官僚主義の極致だなあ。こうして体制は崩壊していくのだなあ。どこか、今に似ているところが不気味だけど。このシリーズの続編は今も「週刊新潮」で連載中で、次が楽しみだなあ。