ちくま日本文学「坂口安吾」

坂口安吾 [ちくま日本文学009]

坂口安吾 [ちくま日本文学009]

 書店で見かけて、つい買ってしまった。坂口安吾はずいぶん昔に好きで読みふけったことがあった。久しぶりに読んだのが、やはり好きだなあ。「堕落論」「続・堕落論」「日本文化史観」などの日本論、「石の思い」「風と光と二十の私と」「勉強記」などの自伝エッセイ、「白痴」「金銭無情」「桜の森の満開の下」などの小説。どれも面白かった。一方で、「風博士」、「村のひと騒ぎ」などの初期の作品は今ひとつ乗り切れなかった。やはり、戦争を経験した後、そこでの赤裸々な人間の姿を見てからの安吾が「安吾」と思う。人間の生の現実をまるごと許容し、せこさも、ずるさも、みにくさもまるごと呑み込みながら、なお、その視線はやさしい。人間を人間として直視する誠実さは(特に評論を読んでいると)ジョージ・オーウェルを思わせるところがある。「白痴」は、みにくさ、せこさを描きながらも、せつなく透明で美しいし、「満開の桜の森の下」は、残酷凄惨な話なのだが、童話を思わせるものがある。考えてみれば、童話はとかく残酷だし、子供向けのようでいて人生を語っているところがある。それは、この小説も同じだ。ともあれ、敗北した日本を描いた安吾の作品は、いまの日本の状況に合っているかもしれない。日本は変わっていないのかもしれないなあ。