アミン・マアルーフ「アラブが見た十字軍」
- 作者: アミンマアルーフ,Amin Maalouf,牟田口義郎,新川雅子
- 出版社/メーカー: 筑摩書房
- 発売日: 2001/02/01
- メディア: 文庫
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フランクに通じている者ならだれでも、彼らをけだものとみなす。勇気と戦う熱意にはすぐれているが、それ以外には何もない。動物が力と攻撃性ですぐれているのと同様である。
これって今でも変わらないアラブの欧米観かもしれない。湾岸戦争でも、イラク戦争でも強いけどって・・・。正確には、欧米とういより、ブッシュの米国を、そういう目で見ているんだろうなあ。
で、この当時を見ると、イスラムのほうがキリスト教の礼拝を尊重したりするし、医学も進んでいる。文明は欧州よりも進んでいるのだが、文明の進化は民族を虚弱にしてしまうのだろうか。アラブにもフランクと組むものやら、イスラムの異端、暗殺教団やらが登場して、政治情勢は複雑怪奇。アラブ対十字軍という単純な構図ではなく、これにビザンチン帝国(東ローマ帝国)やら、最後にはモンゴルまで登場して覇権を競う。ユダヤ人はアラブ人と一緒に十字軍に虐殺されたりしている。そんな混沌を極めて状況にありながら、スルタンやら、王やらが死ぬと、十字軍と戦うことよりも、後継者の座を巡り、身内の権力闘争のほうが優先されてしまう。
最後は十字軍は追い払われるわけだが、英雄たちはクルド人であったり、トルコ人であったり、純粋なアラブ人というわけでもない。アラブ、ユダヤともに不幸な歴史を背負った民族なのかもしれない。
アラブ人の名前は聞き慣れないので覚えにくいのだが、この時代に輝くのはやはり、エルサレムを解放したサラディン。フランクの暴虐と戦いつつ、フランクの中の高潔な英雄たちには礼を尽くす。オーランド・ブルーム主演の「キングダム・オブ・ヘブン」のモデルになったと思われる史実が紹介されている。
「アラブから」というタイトルは付いているが、筆者はレバノン生まれのジャーナリストで、読みやすいし、バランスもとれている。最終章は、最後は十字軍に勝ったアラブがなぜ没落してしまったかに割かれている。今のイスラエル問題にしても、悠久の歴史の中の出来事なんだなあ。