津野海太郎「ジェローム・ロビンスが死んだ」

ジェロームロビンスが死んだ ミュージカルと赤狩り

ジェロームロビンスが死んだ ミュージカルと赤狩り

 ジェローム・ロビンスと言えば、ミュージカルの革命家にして、ダンスの天才。「踊る大紐育」(On The Town)や「ウエスト・サイド・ストーリー」をレナード・バーンスタインとともに生みだした。自らの舞台を集大成した「ジェローム・ロビンス・ブロードウェイ」を見たことがあるけど、これがすごかった。そのロビンスが赤狩りの時に、仲間を売ったとは知らなかった。エリア・カザン赤狩りに屈して、「密告者」となり、その後、映画、演劇関係者の間で総スカンにあったのは有名な話だったが、「ウエスト・サイド・ストーリー」のような社会派ミュージカルを生みだしたロビンスもそうだったとは。一方で、軽い体育会系に見られるジーン・ケリーが硬骨漢で、赤狩りと戦う。これまた意外な話だった。
 ただ、今の価値観で「密告者」「裏切り者」というのは容易いが、津野氏の詳細な時代考証を見ていくと、そう単純には言い切れない。ユダヤ人で、元共産党で、ゲイ(恋人がモンゴメリー・クリフトだったりする)。マイノリティの三乗で、しかも、時代は米ソ冷戦の深刻化、中国の共産化に加え、カリスマ大統領、フランクリン・D・ルーズベルトの死をきっかけに右派・保守派の強烈な巻き返しが始まる。そうした諸情勢の中で、自分の倫理観を守るのがどれだけ難しいか。ジーン・ケリーのような大スターは別格にして、ハリウッドやブロードウェイから追放されていく。才能ある人が多かったから、復帰した人も多いが、それまでに相当な寄り道を強いられている。エド・サリバンってニクソンみたいな風体で人相が悪いと思ったら、自分のコラムを使ってアーティストを脅迫することも恥と思わない、とんでもない人間だったんだなあ。
 この話が古い話を描いているようでいて、新しいのは今も再び、イントレランス(不寛容)の時代を迎えているからだなあ。表面的には、ゲイに対して社会は寛容になったようにみえるが、911以降、「愛国者」かどうかが再び、問われ、異質の者を糾弾する傾向が強まっている。津野海太郎氏といえば、「本とコンピュータ」で、最近は何をしているかと思ったら、こうした本を書いていたのか。ジェローム・ロビンスとともに、時代を、社会を、アートを考えさせる本。
【参考】
ウィキペディア、グーグルなどで「ジェローム・ロビンス」を見ると
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ウィキペディア、グーグルなどで「ジーン・ケリー」を見ると
 wikipedia:ジーン・ケリー
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