山本一生「恋と伯爵と大正デモクラシー」

恋と伯爵と大正デモクラシー 有馬頼寧日記1919

恋と伯爵と大正デモクラシー 有馬頼寧日記1919

 「有馬記念」の生みの親である有馬頼寧の日記をもとに、有馬氏の恋(不倫)と社会活動を描く。不倫の一方で、貧しい者、虐げられた者の救済に走り、華族に疑問を抱く。矛盾に満ちているが、それが人間なのだろうし、大正デモクラシーの時代が反映しているのだろう。有馬氏はその後、大政翼賛会の事務総長になるが、右派から攻撃を受けて辞任に追い込まれる。その後は失意の人生で。有馬記念にしても、その「失意」の時代の産物というのも皮肉な感じがする。最も生き生きとしていたのは「恋」に生きた時代から大政翼賛会までで、その後はすべて余生だったのかもしれない。本人には晩年の頼寧氏と貞子夫人の写真も収録されているが、一度は家も身分も捨てて新たな恋人(愛人)のもとへ走ろうとした夫と、それを許さず、結局は家をあげて、その恋を消滅させた妻が老後、何事もなかったかのように自然と写真におさまっている姿というのは「人生って深いなあ」と思う。心の奥底で本当は何を考えているのか、わからないなあ。森鴎外の「舞姫」を思い出してしまったりもする。有馬日記から様々な人々の人生を発掘してきた山本一生氏の執念にも脱帽する本。