ちくま日本文学・澁澤龍彦

澁澤龍彦 (ちくま日本文学 18)

澁澤龍彦 (ちくま日本文学 18)

 突然、澁澤龍彦を読み返したくなって、拾い読み。「サド侯爵」「反社会性とは何か」「狂帝ヘリオガバルスあるいはデカダンスの一考察」などを読む。サドに関する論考は興味深い。例えば、次の一節。

バスティーユの重い扉が目の前で閉まったとき、真のサド侯爵が誕生したのだった。おそらく、サドはこのとき、すべてをいう特権、自由の恐怖に酔う特権が、じつは牢獄のなかにしかないことを無意識のうちに覚ったのである。/こうして彼は死ぬまで有罪の立場をえらばざるをえないことになった。「すべてをあからかさまにいう」という単純なことが、いかに体制にとって恐怖すべきことであったかは、サドの数々の受難の歴史を振り返ってみれば一目瞭然であろう。すなわち、王の体制下では、サドは風俗壊乱罪の犯人であった。革命政権のもとでは、彼は穏健主義者であった。そして執政政権および第一帝政下では、彼は精神病院に閉じこめられるべき狂人であった。自分の身に禍いの降りかかってこないような文章を、じつはサドは一行も書かなかったのである。逆説的にいうならば(いや、決して逆説ではあるまい)、彼はみずからの理性によって監禁されたのである!/理性を突破する理性は狂気と見なされる。「理性の時代」に有罪宣告を受けた理性の人、−−それが文学者としてのサドである。

 う〜む。