村上春樹「レキシントンの幽霊」

レキシントンの幽霊 (文春文庫)

レキシントンの幽霊 (文春文庫)

 先日、市川準監督の追悼特集で「トニー滝谷」という映画をテレビで放映していた。その語り口が良くて、誰の原作かと思ったら、村上春樹だった。ということで、その「トニー滝谷」が入った短編集「レキシントンの幽霊」を読む。村上春樹はこのところ、翻訳が中心で、小説は久しぶりだったのだが、楽しめた。「トニー滝谷」、映画は最初のほうしか見なかったのだが、小説は期待通り良かった。心に染みてくる作品。この短編集のなかでは、このほかに「レキシントンの幽霊」「沈黙」「七番目の男」「めくらやなぎと、眠る女」が良かった。「緑色の獣」「氷男」は寓話。いずれも、孤独がテーマになっている。静かな作品。「沈黙」に出てくる嫌な奴はどこにでもいるな。そして、そうした人間に誘導される無批判、無思想で、悪意なく人間を傷つけ、何ら罪の意識もない「沈黙」の人々もいるなあ。人間に対する諦観と希望が両方ある作品集。