宇沢弘文「社会的共通資本」

社会的共通資本 (岩波新書)

社会的共通資本 (岩波新書)

 資本主義が暴走した末の大不況到来の予感に震える中で、社会的共通資本という概念には惹かれるものがある。では、通常の資本(「私的資本」というのだろうか)と区別すべき、「社会的共通資本」とは、どんな概念か。

 社会的共通資本は、一つの国ないし特定の地域に住むすべての人々が、ゆたかな経済生活を営み、すぐれた文化を展開し、人間的に魅力ある社会を持続的、安定的に維持することを可能にするような社会的装置を意味する。

 ということになる。そして、「自然環境、社会的インフラストラクチャー、制度資本の3つの大きな範疇にわけて考えることができる」という。で、この本では、「農業」「都市」「教育」「金融」「地球環境(地球温暖化)」をとりあげている。いずれも現在、問題が深刻化している分野だ。ただ、新書という性格もあって、各章はガイダンスといった感じ。もっと勉強するには、それぞれの分野の専門書を読む必要があるんだろうな。
 しかし、これを読んでいると、かつて「ケインズを超えて」が合い言葉だった経済学が今は「反ケインズを超えて」という領域に入ってきた感じがするなあ。米国も、反ニューディールのレーガニズムから、オバマの時代に入り、「反ニューディール」を超えて「ニュー・ニューディール」の時代に入ろうとしている。そんな時代、「社会的共通資本」という概念は重要性を増してくるのかも。