このところ、
ティム・オブライエンにはまっているのだが、これは彼の
出世作。全米図書賞を受賞している。パリに行くと言って戦線離脱(脱走)したカチアートと、それを追う4級特技兵(スペック・フォー)、ポール・
バーリンの物語。現実と幻想が交錯するストーリー展開。先日、読んだ「本当の戦争の話をしよう」が1990年の作品で、「カチアート」は1978年。静かに語る「本当の戦争の話」と、いささかスラップスチック的なホラ話も交えての「カチアート」には、それぞれの時代の空気と、
ベトナム戦争での実体験からの時間というものがあるように思える。個人的には「本当の話」の静かな語り口が好き。そう思うと一方で、まだ戦場を離れて10年もたっていないときに書くとしたら、「カチアート」のような書き方しかなかっただろうとも思い、こちらはこちらで味がある。そして底に流れている哀しみは両作品とも変わらない。