林雄二郎「情報化社会」

情報化社会 復刻版―ハードな社会からソフトな社会へ

情報化社会 復刻版―ハードな社会からソフトな社会へ

 1969年に出版された本の復刻版。「情報化社会」という言葉を生んだ本。これが今から40年前に書かれたというのは驚くべきことだ。

 いわゆる情報的動機が商品の購買動機として、きわめて高い比重をもっており、実用的動機はおおむねそれに劣る。なかんずく経済的動機は今日、多くの人たちにとってほとんど問題外といってもいい程度の軽い動機にしかなっていないことになる。

 これが69年ということは、昭和44年に書かれたんだからなあ。70年安保の真っ最中に、こんなことを考えていた人がいたんだ。こんな話も。

 今日この社会に存在するたくさんの商品のコスト構成をことごとく実用性コストと情報性コストの二つにわけてみる。(中略)情報性コストと実用性コストの比重が、それぞれ五〇パーセントずつのときを境にして、それよりも情報性コストの比重が高い商品を消費財、低い商品を生産財というわけ方も考えられるかもしれない。

 なるほどねえ。面白い考え方だなあ。で、企業論では、こんな具合。

 中小企業は大企業に比べて生産施設が小さいから、非常に身軽である。このような実用性機能における身軽さは、前に述べた商品の機能が次第に情報的機能重視の傾向を持ってくるとすれば、客の好みが重要になってくるから、かえって身の重い大企業よりも身軽な中小企業のほうが、客の好みにすぐに適応できる利点があるのではないか。大企業の場合には大量生産のたいへん重い施設をもっているので、中小企業のような身軽な適応がなかなかできない。したがって大企業の場合には、みずからが市場に適応するというよりも、いったん生産設備を作ってしまうと、それに即応するような市場を強制的につくっていかなければならない必然性がおこってくる。大企業がしばしばきわめて意識的な流行を創出し、またそのような宣伝広告に力をいれるゆえんは、そこにある。

 大量生産・大量宣伝・大量消費という「マス」のサイクルのこと。鋭いなあ。40年前だもんなあ。こうした認識は組織論に発展し、「柔らかな組織」を提唱する。

 ハードな組織、それはあまり変化のない機能の組織だから、むしろ逆にあまり重要ではないことになる。/ きわめて変わりやすい組織、それは変わりやすいという点では確かに不安定であり、いつ廃止されるか、ほかの組織に移し変えられるかわからないけれども、それだけにその会社としては、むしろきわめて重要な機能になるのである。しかも情報化という傾向を考えた場合に、そこのところが円滑にいくかいかないかで、その会社の死活にかかわることになるかもしれない。となると、そのようなソフトな組織は、ソフトであるがゆえにもっとも重要であり、したがってそういう組織の長にはきわめて有能な人を配しなければならないということになってくる。

 これも現代に通じる組織論だなあ。<“ヤスム”レジャーから“スル”レジャーへ><「好きで働く」というレジャー>など、これを40年前に見抜いたんだから、恐るべしだなあ。現代にも生きる情報化社会論の本だった。