シャーリーン・リー、ジョシュ・バーノフ「グランズウェル」
グランズウェル~ソーシャルテクノロジーによる企業戦略 (Harvard Business School Press)
- 作者: シャーリーン・リー,ジョシュ・バーノフ,伊東奈美子
- 出版社/メーカー: 翔泳社
- 発売日: 2008/11/17
- メディア: 単行本
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で、グランズウェルとは・・・
グランズウェルとは社会動向であり、人々がテクノロジーを使って、自分が必要としているものを企業などの伝統的な組織ではなく、お互いから調達するようになっていることを指す。
ブログであり、SNSであり、評価サイトであり、ソーシャルブックマークであり、YouTubeであり、Twitterでありが存在する世界で、企業はどう行動するか、という話でもある。グランズウェルは「3つの力」の衝突から生まれたという。
・人間(つながりたいという人間の欲求)
・テクノロジー(インターネットに代表される新しい双方向テクノロジーの登場)
・経済学(ネット広告市場の急拡大などネットがカネになる)
この3つのトレンドが新しい時代を開き、急速に進化し、企業にとっての課題となってくる。例えば・・・
メディア企業は要注意だ。広告主の予算はどんどんネットに移っている。グランズウェルは、独自のニュースサイトを生み出した(グーグルニュースやディグなど)。ニュースの概念が変わり、スクープを求めて、ブロガーとジャーナリストがしのぎを削るようになった。人々は放送電波やDVDからテレビ番組や映画などの娯楽作品を取り込み、ハッキングし、編集を加え、ユーチューブやデイリーモーション(Dailymotiion)に投稿している。
米国の新聞は危機的状況にあるしなあ。ブランドもイメージを伝え、コントールすることが難しくなるし、小売業者の流通支配も、価格情報をネットですぐに比較できる時代には難しいーー。さまざまな問題に企業は直面することになると言うわけ。確かにその通りだな。
で、ネットも進化してきているので、この本ではネットか、非ネットかなどという単純な区分はしない。デモグラフィックス(年齢・性別などによる人口分析)ならぬ、「ソーシャル・テクノグラフィックス・プロフィール」という概念を持ち込む。つまり・・・
(1)創造者
ブログを書いたり、サイトをつくったり、自作の動画を投稿する人
(2)批評者
商品・サービスのレビューをしたり、ブログにコメントする人
(3)収集者
ソーシャルブックマークなど、ウェブページや写真にタグ付けする人。
(4)加入者
SNSに加入して、プロフィールを更新する人
(5)観察者
ブログ、動画投稿サイト、レビューなどを読んだり、利用する人
(6)不参加者
ネットに参加しない人
ーー以上の6つのカテゴリーに分けたうえ、企業は商品・サービスの特性によって、自分たちの顧客がどのように分布しているか、どこを通じることでアプローチすべきかと提言する。これは当たっているなあ。若者向けの商品だからサイトをつくってなんていう単純な時代は終わってしまったんだなあ。自分たちの消費者がネットのどこに親和性を持っているかを把握しなければ、確かに仕方ない。実際、富士通のPC所有者はNECのPC所有者に比べて、(1)から(5)の参加者が多いという。商品だけでなく、企業によっても差が出てくる。
こうしたうえで、企業のグランズウェル戦略は目的を明確にすべきであるとし、5つの目的を明示する。
(1)傾聴(リサーチ)
不定期にアンケート調査やフォーカスグループ調査を行うのではなく、顧客の会話を常時モニタリングできるようになる。
(2)会話(マーケティング)
顧客に一方的にメッセージを伝えるのではなく、顧客との会話に参加し、会話を促進できるようになる。
(3)活性化(セールス)
熱心な顧客を支援することで、他の顧客の購買行動に影響を及ぼせるようになる。
(4)支援(サポート)
顧客同士が助け合えるようになる。
(5)統合(開発)
顧客の活発な意見交換の中から、商品開発のアイデアを引き出せるようになる。
で、この5つの目的の実現に向けてPOSTプロセス(人間、目的、戦略、テクノロジー)を推進する方法を、具体的な企業の実例をあげて説明してくれる。で、この実行のアドバイスとして
(1)小さく始める(ただし、拡大の余地を見込んでおく)
(2)グランズウェル戦略がもたらす影響を考え抜く
(3)高い地位にいる人物を責任者に据える
(4)テクノロジーの選択とパートナーの選択は慎重に
ともあれ提言がどれも具体的で親切。インターネット時代のビジネスのあり方については、いろいろな視点や方法論があるけど、ビジネスとインターネットというと、日本では一部の先端的な企業の話で、どこか遠い感じがしたのだが、この本を読んでいると、もはや、未来論ではなく、現実の経営戦略として実行するときなんだなあ。薦めてくれた人に感謝。これは必読の書だなあ。