ミュンヘン

 スティーブン・スピルバーグイスラエルの暗部を描く。ミュンヘン・オリンピック・テロ事件のあと、報復のために「黒い9月」のメンバーをイスラエルの秘密部隊が暗殺していった実話。「シンドラーのリスト」のように正義と悪が明確ではない。正義の名の下に、どこまで許されるのか。正義は次第に曖昧になり、追う者が追われる者になる。スピルバーグの世界観は二元論的な単純さが信条という感じもするのだが、この映画はもう少し複雑。イスラエルの暗殺チームのリーダーを演じるエリック・バナが、祖国を失った悲しみを切々と語るパレスチナゲリラのメンバーと話すところに、それが出てくる。スピルバーグにはめずらしく、とことん暗い映画。
 良い俳優が顔を揃えているのも、この映画の特徴。エリック・バナは深い哀しみとともに少年のような純粋さがある。ただ、暗い。このほか、暗殺チームの隊員には、現在の「007」シリーズのジェームズ・ボンドを演じているダニエル・クレイグ、「アメリ」のマチュー・カソヴィッツ、よく悪役で見るキーラン・ハインズ、暗殺部隊に情報を提供する暗黒組織の首領に「ジャッカルの日」のマイケル(ミシェル)・ローンズデール、その息子に「潜水服は蝶の夢を見る」のマチュー・アマルリック。暗殺部隊を動かすモサドの担当官に、ジェフリー・ラッシュ。オランダ人の美人殺し屋を演じたマリ=ジョゼ・クローズも印象に残る。
【参考】
オフィシャルサイト
 http://munich.jp/
ウィキペディアでは
 wikipedia:ミュンヘン (映画)
原作は「標的は11人」。映画を見る前に読んで、衝撃を受けたノンフィクションだった。
標的(ターゲット)は11人―モサド暗殺チームの記録 (新潮文庫)

標的(ターゲット)は11人―モサド暗殺チームの記録 (新潮文庫)