トーマス・フリードマン「グリーン革命」

グリーン革命(上)

グリーン革命(上)

グリーン革命(下) 「フラット化する世界」のトーマス・フリードマンの話題作。オバマ政権のバイブルというのも、わかる。上下2巻だが、平易で読みやすく、一気に読んでしまった。ブッシュ政権の石油主義が、イスラム原理主義のテロを助けるというパラドックス。石油資源国は、サウジ、ロシア、ベネズエラ独裁政権が多く、石油価格の高騰が独裁政権の基盤を強め、反米を加速させる。脱石油は、米国の政治戦略上も必要とされているというところが、石油に取り憑かれたブッシュ政権と一線を画す。気候変動問題だけではなく、政治・軍事上もグリーン化は不可欠というのは、従来の環境論にとどまらない視点。フリードマンの主張は以下の一節に象徴される。

 エネルギー気候紀元の物語は、温暖化、フラット化、人口過密化という、史上最大の嵐が起きてそれで終わりというわけにはいかない。温暖化、フラット化、人口過密化が重なることで、五つの大きな問題ーーエネルギー需要と供給、石油独裁主義、気候変動、エネルギー貧困、生物多様性の喪失ーーが、ティッピング・ポイントをはるかに超えて、地球も人類もいまだかつて経験したことがない新しい領域に突入しようとしている。

 で、エネルギー効率を高めるためには、「スマート・グリッド」というか、「エネルギー・インターネット」というか、情報技術とエネルギー技術の融合が求められるとか、イノベーションの価値、公益企業の規制のあり方(今の政策・規制では、電力会社は、効率化よりも、設備投資にインセンティブが効く仕組みになっている)、税制などによるグリーン市場の活性化(これはハイブリッド車の優遇税制など日本でも始まっている)、省エネ化で大ヒットしたディーゼル機関車の話などなど、具体的かつ斬新な事例がいくつも紹介され、アンダーラインを引いていたら、アンダーラインだらけになってしまった。ともあれ、斬新な視点と刺激的な論点を提供し、グリーン革命の出発点になる本。この分野の必読書であり、最良の啓蒙書といっていい。