ニコラス・G・カー「クラウド化する世界」
- 作者: ニコラス・G・カー,村上彩
- 出版社/メーカー: 翔泳社
- 発売日: 2008/10/10
- メディア: 単行本
- 購入: 21人 クリック: 162回
- この商品を含むブログ (159件) を見る
仮想化のおかげで、企業はーー言い換えると、企業に奉仕するユーティリティはーーメインフレーム時代の特徴だった高い設備稼働率を回復し、同時にパソコン時代以上の柔軟性をも獲得した。仮想化は、メインフレーム時代とパソコン時代両方の、最大の長所を提供するのである。
なるほどねえ。で、仮想化であったり、クラウドの普及は、バージョンアップを前提としたコンピュータービジネスに変化を迫る。ビル・ゲイツの引退について、こう書いたりもしている。
ゲイツをはじめとする、PC時代を担った偉大なソフトウエアプログラマの時代は終わった。コンピューティングの未来を担うのは、新しいユーティリティ事業者たちなのだ。
こういう書き方をするから、IT業界の神経を逆なでしてしまうんだろうなあ、この人は。「IT Doesn't Matter」のときみたいに。しかし、2005年にビル・ゲイツがマイクロソフト社内に、クラウドを警告するメールを出していたというのは、この本で初めて知った。ネットスケープが株式を公開した1995年頃、インターネットは津波だ、という警告メールを出したことを想起させるなあ。やっぱり、クラウドはITの世界を変えてしまうんだろうなあ。
それと、もうひとつ、印象に残ったのは、Googleの究極の目的は、人間の頭脳に直結する人工知能を開発することと指摘した部分。そこに今、物議を読んでいるブックサーチ問題も絡んでくる。Googleの技術者の話を紹介した、こんな一節がある。
(技術史の専門家であるジョージ・)ダイソンはある技術者と話し込んだ。話題は、論争の的となっている同社の計画、世界中の図書館のコンテンツをスキャンしてデータベースに取り込むという計画だった。「我々は人に読んでもらうために本をスキャンしているんじゃありません」と、その技術者は言った。「AIに読ませるためにスキャンしているんです」
いかにも、Googleっぽい話だなあ。旧来メディアの商売を奪おうとしているという話よりも、すべての本をコンピューターに読み込ませて、人工知能をつくろうとしているっていう話のほうが、Googleの理想主義というか、テクノロジー原理主義的狂気というか、ともあれ、Googleっぽい。
原題には「クラウド」という文字はなく、「THE BIG SWITCH: Rewriting The World From Edison To Google」だった。ビジネス論としても、社会論としても、文化論としても面白い本だった。