中村浩美:写真の歴史入門 第4部「混沌」 現代、そして未来へ

写真の歴史入門 第4部 「混沌」現代、そして未来へ (とんぼの本)

写真の歴史入門 第4部 「混沌」現代、そして未来へ (とんぼの本)

 中村浩美は東京都写真美術館の人で「東京都写真美術館監修」の現代写真史。シリーズものだが、第4部に惹かれた。米国、欧州、日本に分けて解説される。米国のニコラス・ニクソンの「ブラウン姉妹」は1975年から毎年、4人姉妹を撮り続けているもので、継続は力なり。ひとつのプロジェクトといってもいいかもしれない。シンディ・シャーマンの「アンタイルド・フィルム・スチル」は、1950〜60年代のハリウッド映画女優に扮した写真集。米国はどうも、発想の面白さから始まるプロジェクトといった感じ。
 一方、欧州のほうが写真としての面白か、美しさがあった。ヘルムート・ニュートンの有名なシャーロット・ランプリングの写真、ジョセフ・クーデルカの「ルーマニア」、セバスチャン・サルガトの「セラ・ペラダ金脈、ブラジル・パラ州」、在欧日本人カメラマンの田原桂一「『窓』より」など芸術性が高い。ベルト&ヒラ・ベッヒャーの「9つの戦後の家」、トーマス・シュトルーツ「島田家」、マーティン・バー「テネリフ、『スモール・ワールド』より」はプロジェクト的な現代アートベネトンの広告写真(エイズの写真が有名)を撮っていたオリビエーロ・トスカーニも印象に残る。欧州勢は国の多様さもあるだろうが、多彩。
 日本勢は荒木経惟森山大道が登場。収録されていた作品で印象的だったのは、伊奈英次在日米軍空軍三沢基地第6920電子保安軍、青森県三沢市、『ZONE』より」(現代戦の最前線で、いわばバーチャルな戦場写真ともいえるんだが、幻想的で美しい)、米田知子「谷崎潤一郎の眼鏡、松子夫人の手紙を見る、『Between Visible and Invisible』より」(繊細)。
 写真は、いいなあ。