長友啓典、野地秩嘉「成功する名刺デザイン」

成功する名刺デザイン

成功する名刺デザイン

 「成功する」というと、功利主義的で、いかにもだけど、むしろ「幸せを呼ぶ」といったほうがいいなあ。沢木耕太郎坂本龍一宮沢りえから、お店の名刺に至るまで、長友啓典氏がデザインした名刺の数々についてライターの野地氏が聞く。社員ひとりひとり、違うロゴにしたという大阪のFMの名刺とか、こんなデザインもあるのかという名刺が次々と出てくる。個人にしても、会社にしても、名は体を表すならぬ、名刺は体を表すデザインになっているところがすごい。面白かったのは、ブログ名刺。住所を教えるのも、電話番号を教えるのも嫌。自分を知ってもらうには、ブログがいいし、そこに連絡してもらえれば大丈夫というわけで、ブログのURLだけを書いた名刺がある。このデザインがまた良い。いまどき、会社用と個人用と二つの名刺を持つべきというのは、野地氏の主張。確かにプライベートの席で、会社の肩書きの名刺というのも、カッコ悪いかも。で、リタイア後について、北海道と東京で半年ずつ暮らしている人のこんな忠告が出ている。

 「あのね、野地くん、引退後のために憶えておいた方がいいよ。引退したら、これから言うふたつだけは、肝に銘じておくことだ。まずひとつは、昔の肩書き入った名刺は絶対に使わないこと。もうひとつは日経を読むのはやめる。他の新聞を読むのはいいけれど、日経はやめること。
 私が暮らしている北海道の伊達市は移住者が多い町なんだよ。東京からも何人かの移住者がやってきている。そのなかで嫌われるのが、昔の肩書きにこだわる人と、日経ばかり読んでいて経済の話をする人。引退したら、それまでの人生と決別しなくちゃならない。いつまでも過去の話をする人は相手にされなくなるんだ。

 なるほどねえ。日経は文化面も充実していると思うけど、ま、いずれにせよ、過去との決別ね。会社人間にはけっこう難しいだろうなあ。ともあれ、名刺は奥が深い。これだけ、いろいろと話が展開していくんだから。