小川忠「インドネシアーー多民族国家の模索」

 ずいぶん前に買ったまま、読まずにいた本。1993年の出版だから、IMF危機以前のインドネシア。しかも、国の構造が歴史も含めて全体的に描かれているというわけではなく、文化から見たインドネシア社会といったほうがいい本。20世紀のインドネシア、しかも、その一断面なのだが、何となく読み始めたら、知っているようで、知らない国なので、面白かった。さまざまな民族が「インドネシア語」という人工的な共通言語で成立した国家だったのか。また、インドネシアというと、日本は戦後の独立戦争に至るまでオランダの植民地支配から支援したんだから、戦中の行動も含め、インドネシアの対日感情は良いという通説は「幻想」と指摘されている。軍政の下手な日本が、インドネシアだけ善政を敷いたということはないか。従軍慰安婦問題やら、強制徴用問題やら、支配・被支配の構造はインドネシアでも変わらず、日本の軍政を見る目は厳しい。国立映画製作所には「虐待のモニュメント」があるらしいから。日本に対する感情はアンビバレントという。やはり現地から見ないと、わからないんだなあ。