嶋聡「政治とケータイ」

政治とケータイ ソフトバンク社長室長日記 (朝日新書)

政治とケータイ ソフトバンク社長室長日記 (朝日新書)

 民主党衆議院議員からソフトバンク社長室長に転じた嶋聡氏が自ら、政から民への「回転ドア」の体験を語る。日本の政治論とソフトバンク論の双方を知ることができる本で、面白かった。2008年9月出版の本なので、2005年の民主党衆院選敗北から08年の参院選勝利までで、麻生政権や今回の政権交代まではフォローされていないが、それでも、ここ数年の政治は激動の時代だったと改めて思う。そして、その時代は、ソフトバンクにとっても、2006年のボーダーフォン日本法人の携帯電話事業買収によるモバイル分野進出など、激動の時代だった。改めて考えると、2000年代の後半5年は激動期だった。だから、嶋氏のような新しい生き方も出てくるわけだなあ。
 で、この本の中で紹介されていた筆者が松下政経塾時代に堺屋太一氏から教わったという「プロジェクトメイキングを成功させる3要素」

大義名分の明確化】プロジェクトの大義名分を明確にし、青天白日のものにしなくてはならない。(略)
【象徴の擁立】カリスマのある人物を象徴として戴かなくてはならない。多くの人間は理性ではなく、イメージで判断するので、象徴の有無が成否を決する。
【情報発信】あらゆる機会、チャネルを使って、プロジェクトの意義を広く繰り返し発信していかなくてはならない。人間は初めて聞いたときは違和感を感じるが、2回目には「知っている」と共感を持ち、100回目にはその人にとっての「真実」になる。

 なるほど。これは方法論として納得できるなあ。もうひとつ、読んでいて、面白かった永田町・霞が関のメディア論。

 政治家はテレビに出たがるが、自分以外の映像は見ない。だが、新聞、雑誌などの記事は、本会議、委員会のときに持ち込み、読んでいる。
 本会議が午後1時から3時30分ぐらいまであるときなど、絶対暇になる。1人が記事などを読んでいると、隣席から「見せてくれ」などといわれることもあるから、新聞、雑誌は議員にきわめて効果的である。
 官僚の幹部も同様である。大臣報告の時の参考資料になる新聞の記事が最高である。

 要するに、永田町・霞が関では、新聞・雑誌などのペーパーメディアが有用であるという。なるほど。米国の政治メディアサイト「Politico」は紙の媒体も作り、ワシントンの政治家に配布しているというが、これも同じような理由なのかも。政治家が一番、暇なのは議場で、そこで読んでもらい、影響力を発揮しようと思えば、メディアとしては「紙」なのかもしれない。この本の本筋とは関係ないけど、印象に残った部分。