鈴木孝憲「ブラジル 巨大経済の真実」

ブラジル 巨大経済の真実

ブラジル 巨大経済の真実

 BRICsの躍進が目覚ましいが、どうもブラジル経済についてイメージできず、この本を読んでみる。これでわかったところと、ますますわからなくなってしまったところがある。わかったのはカルドーゾ政権から現在のルーラ政権に至るインフレ抑制・通貨対策の成功。ブラジルというと、ハイパーインフレやら、債務危機のイメージが強かったのだが、90年代に入ってからの政策転換で経済基盤が強化された。日本企業は「永遠の未来の国」(「未来」の将来性を評価されながら、いつまでも離陸せず、栄光の未来は永遠に来ないという意味での「永遠の未来」)に愛想がつきて腰が引き気味だったが、この時期に欧米や新興国が進出し、投資も活発化した。当然、経済成長も加速する。このあたりの情報と評価が日本に欠けていたことが、ブラジルを見えなくなしていたのかと、改めて納得。
 ただ、豊かな国土に恵まれ、一次産業での優位性はわかるのだが、二次産業、三次産業についての実力については、この本を読んでも、もうひとつ、わからなかった。中国・インド・ロシアに比べて制度面で優位というが、インフラ、労働制度、税制などでは、むしろ問題点が目立つように思えた。中国・インドは、混沌としながらも、成長へのエネルギーがあるが、そのあたりがわからない。公務員天国にも見えるし、ロシア同様、一次産品の高騰に助けられている部分が大きいのではないかと思える。中国・インドが存在感を見せ始めた情報産業などはブラジルでは、どうなっているのだろう。さらに別の本を読んでみたくなった。
 とはいえ、現代のブラジル経済について、まとまった本がない中で、貴重な本。ブラジルが独自技術を持つ分野というのも、これで初めて知った。具体的には、以下のような分野。
・深海底油田開発・採掘技術
・大型土木建築技術
バイオエタノール技術
ユーカリ植林技術
・航空機製造技術
 最後の航空機を除くと、やっぱり一次産業志向だなあ。