菩提樹

菩提樹 [DVD]

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 原題は「トラップ・ファミリー」(Die Trapp-Familie)。タイトルからもわかるように「サウンド・オブ・ミュージック」の原作ともいえる西独映画。主人公のマリアの伝記をもとにしており、出てくるエピソードにも共通のものがあるが、こちらのほうがリアルで、ユーモアもある。特に、ナチス・ドイツオーストリアを併合した日、朴訥そうな執事が「3年前から党員」だったと打ち明け、そのあとに登場したチロル姿の純朴そうな男が一転、ナチスをかさに着て、狡猾な表情で「おまえたちのことは何でも知っている」という場面は不気味。戦後10年余りでつくられたドイツ映画であったし、まだ記憶が生々しかったのだろう。リアルで怖い。
 トラップ大佐は、こちらも反ナチで信念の人ではあるが、より人間的で、弱さもある。演じたハンス・ホルトには、クリストファ・プラマーとは異質の良さがある。「サウンド・オブ・ミュージック」とは違って、トラップ家は大恐慌で財産を失い、邸宅をホテルにして生計をたてたというのを何かで読んだが、そのエピソードは、こちらの映画には出てくる。マリアはたくましい人だった。主演のルート・ロイヴェリクが合っている。こちらもジュリー・アンドリュースとはまた違った良さがある。映画の最後は米国に入国できるところまで。この入国自体がひとつのドラマだった。考えてみれば、山を超えてスイスに入ってハッピーエンドというのは物語の話で、現実には生活していかなければならないわけで、米国入国も大きなハードルがあったのだろうなあ。
 というわけで、古い映画(1956年)だったので、どうかと思ったが、結構、楽しめた。