ティモシー・ライバック「ヒトラーの秘密図書館」

ヒトラーの秘密図書館

ヒトラーの秘密図書館

 ヒトラーの個人的な蔵書をめぐる本(原題は「HIttler's Private Library」だから、秘密図書館というよりヒトラー文庫といった感じかも)。米国議会図書館に保存されていたヒトラーの蔵書を書き込みや当時の時代背景から読み解き、その人生を辿る。サイドストーリーとして、ナチスに追われ、自殺した思想家、ヴァルター・ベンヤミンの蔵書論が織り込まれる。蔵書には、その人の人生、思想が反映するというわけ。確かに、この試みは刺激的で、面白い。ソ連軍がベルリンに迫る絶望的な日々に、プロイセン王国存亡の絶体絶命の窮地から「ブランデンブルクの奇跡」で脱した「フリードリヒ大王」の伝記を読んでいたと言うのは、神風を期待していた日本のよう。ドイツも、日本も、史実が神話として血肉と化していたんだろうか。
 しかし、誰かがどこかに書いていたが、本が必ずしも人間の知性、感性を豊かにしてくれるわけではないことを改めて感じる。ヒトラーには系統だった学問的な基盤がなく、学識・知識は劣るという描写もある一方で、大量の本を読み、その知識に圧倒された人も登場する。本は知識を得る道具で、その知識をどう使うかが問題なんだろうけど。ヒトラーの蔵書には、ほとんど小説がなかったというから、やっぱり文学に接することも大切なんだなあ、などと思ったりもした。ともあれ、人の本棚を覗いてみたいのは、本好き人間の性でもあり、そうした覗き見趣味の欲望も満たしてくれる本。スターリン毛沢東の本棚と比べてみたい。あと、チャーチルルーズベルトととも。