グラン・トリノ

グラン・トリノ [DVD]

グラン・トリノ [DVD]

 今のところ、クリント・イーストウッド最後の主演・監督作。正直いうと、あまり期待していなかったのだが、これが意外と良かった。イーストウッドのベストに入れてもいいのではないかと思う。しかし、75歳を過ぎてからのイーストウッドの多作ぶりには驚く。この映画は2008年だから、78歳の作品。2006年に硫黄島2部作をつくり、同じ2008年には、アンジェリーナ・ジョリー主演の「チェンジリング」、2009年には、モーガン・フリーマンマット・デイモン主演の「インビクタス」を撮っている。その間につくっているのだが、いかにも低予算の小品。予算をかけずに好きな映画をつくるところを見ると、イーストウッドは本当に映画が好きなのだなあ。ハリウッド・スター出身なのだが、映画作家といったほうがいいのかもしれない。最後の最後まで映画を撮っていたヒッチコックのようなタイプの映画作家かもしれないけど。職人肌の作家。
 「グラン・トリノ」は「許されざる者」同様、自分の人生に向き合う映画。「許されざる者」の主人公はガンマンだったが、この映画の主人公は市民。人生と老いを見つめる。ラストは予想外。そうか、こういう結末があったか。イーストウッドが描く人生は甘くない。厳しい。親父が言うような「ビタースイート」などという言葉を許さない。しかし、絶望はしないし、希望も夢も否定しない。暗さも明るさも、喜びも悲しみ怒りも、若さも老いも、あるがままに受けて入れていく透明感がある。こうした映画をとるところまで成熟してきたのだなあ。
 俳優はアジア系が中心ということもあり、有名な俳優はほとんど出ていない。低予算で作りたかったのだろうけど。その中で、ひとり見覚えがあったのが、理髪店主人役のジョン・キャロル・リンチ。「ファーゴ」で、フランシス・マクドーマンドのト夫を演じていて、これがなかなかトボけた味で良かった。しかし、この映画で、イーストウッドにアカデミー主演男優賞をあげたかったなあ。
・「グラン・トリノ」予告編