ワールカップ優勝、スペインから脈絡なく連想した映画と本

 ワールドカップはスペインが優勝し、マドリード歓喜のパレードも行われた様子。スペインから連想する映画と本は何か。まず映画でいえば、古典の「汚れなき悪戯」から始まり、ルイス・ブニュエルの「ビリディアナ」「哀しみのトリスターナ」「欲望のあいまいな対象」、ペドロ・アルモドバルの「オール・アバウト・マイ・マザー」「トーク・トゥ・ハー」、 アレハンドロ・アメナバールの「海を飛ぶ夢」などスペインが生み出した作品群は多彩で、スペインを舞台にした米国映画も、ウディ・アレンの「それでも恋するバルセロナ」、フレッド・ジンネマンの「日曜日には鼠を殺せ」とか、印象に残る作品がある。とはいうものの、ボクの頭に真っ先に浮かんだのはこれ。

パンズ・ラビリンス 通常版 [DVD]

パンズ・ラビリンス 通常版 [DVD]

 ギレルモ・デル・トロがスペイン内戦時の少女の悲劇を現実と幻想を交錯させながら描いた異色作。過酷な現実の中で少女は空想の世界でしか救われない。スペインは太陽の国という明るいイメージがある一方、中世にはキリスト教イスラムがぶつかり合った最前線であり、20世紀には人民戦線とフランコとの内戦など血塗られた歴史がある。そうした暴力と流血の歴史的風土の中で生きる人間を描く強烈な印象を残す作品で、これがまず頭に浮かんだ。映画の印象からギレルモ・デル・トロ監督はスペイン人だと思い込んでいたのだが、ウィキペディアを見たら、メキシコ人だった。ちょっと意外。どうも頓挫してしまったみたいだが、この監督で、大友克洋の「童夢」を映画化する企画があった。こちらも見てみたかった。
 で、本のほうでいうと、スペイン文学は、こちらもセルバンテスの「ドン・キホーテ」をはじめ豊潤なのだが、スペインを舞台にした本で脳裏に浮かんだのはこちら。
カタロニア讃歌 (岩波文庫)

カタロニア讃歌 (岩波文庫)

 何だか絶版みたいなのが哀しいが、「1984年」「動物農場」のジョージ・オーウェルのスペイン内戦ルポ。英国人のオーウェルは自由と民主主義の熱狂のなか人民戦線義勇軍に志願するのだが、この理想は現実の政治に裏切られる。ソ連の指導による権力闘争によって、人民戦線は分裂、ファシストと戦うはずが、流血の派閥闘争に陥ってしまう。虚偽と謀略の汚れた世界を見たオーウェルは、この顛末を記録に残そうとしたのがこの本なのだが、自分が見聞したことを完璧に公平・中立に執筆しようとする、その姿が痛々しい。少しでも間違いを書けば、相手と同じ汚れた世界に落ち込んでしまうと思っているかのように、自分自身の見方にもチェックをかけていく。スペインへの愛情にも満ちた傑作ルポルタージュ岩波書店からだけでなく、筑摩書房早川書房からも翻訳が出ていたが、アマゾンで見ると、いまはどこも在庫がない様子。絶版だろうか。さびしい。
 最後に、スペインというと、何だかかんだといっても、この人。
ピカソ NBS-J (タッシェン・ニューベーシックアートシリーズ)

ピカソ NBS-J (タッシェン・ニューベーシックアートシリーズ)

 パブロ・ピカソ。楽しいことも、悲しいことも、明るいことも、暗いことも、その風土と歴史をすべて飲み込んで、この人の作品が存在する。で、画集で言うと、これ。タッシェン(Taschen)の出版物は美しい。