「愛する時と死する時」

 ハリウッドが第2次大戦下のドイツ兵士の悲劇を描いた、ちょっと不思議な映画。内容そのものは不思議ではない。ロシア戦線から一次休暇を得た兵士の束の間の愛をメーンに、ドイツ軍によるロシア市民虐殺、空爆下のドイツ市民の苦難、ゲシュタポ強制収容所などナチスによる圧政、ナチス高官の退廃などが描かれる。不思議なのは、メロドラマ調ではあるものの、1958年に、こうした敵国民の戦時下の生活を描いた映画がハリウッドで製作されたこと。
 原作はレマルク。同じレマルク第一次大戦に従軍したドイツ兵士の悲劇を描いた「西部戦線異状なし」も1930年に米国で映画化され、アカデミー作品・監督賞をとったりしているから、「こうした企画もあり」といえば、「あり」なのだろうが、それでも見ていると、連合軍の無差別爆撃によってドイツ市民が死んでいく映画を、よく作ったなあ、と不思議な気持ちになってくる。ウィキペディアで調べてみたら、この映画、監督のダグラス・サークはドイツ人だが、夫人がユダヤ人だったため、ナチスを逃れるために米国に渡った人だという。それだけ、この映画には思い入れもあったのだろう。
 それにしても、こうした主人公が虐殺する側にいるような題材を取り上げた映画は今では珍しくないが、50年以上前に企画が通ったことが驚き。それも、ジョン・ギャヴィンのような甘いマスクの俳優でつくってしまったわけだから。メロドラマということで、企画を通してしまったのだろうか。
 DVDは単独では出ていないようで、「ダグラス・サーク コレクション」の中に入っている。この映画、NHK BSのダグラス・サーク特集で見たのだが、DVDボックスが出るほどの有名監督だったのだ。結構、映画史には詳しいつもりでいたのだが、NHKの特集まで名前も知らなかった。映画も奥が深い。

ダグラス・サーク コレクション 2 (初回限定生産) [DVD]

ダグラス・サーク コレクション 2 (初回限定生産) [DVD]