星野智幸『俺俺』

俺俺

俺俺

 筒井康隆を思わせるようなシュールな展開を見せる小説。俺が俺を発見し、覚醒し、増殖を続けた果てに崩壊し、そして最後に自分の発見に至る。いまや何でもありで、現実自体がファルスと化している現代を描こうとすると、こうしたシュール・リアリズム的な手法になってしまうのかもしれない。
 荒唐無稽な筋立てだが、表面的な自己愛で「俺ら」という世界にひきこもるのではなく、自己と他者の差異を認めるところから人間は自立し、協調することができるという真っ当な筋立ての物語と読むこともできる。軽い文体で一気に読めてしまうが、そこから何を汲み取るのかは人さまざまで、いろいろな読み方ができそう。ダークサイドを含め本当の自分を見つめることはつらいことで、この小説が描くような狂気の世界に落ち込んでいくリスクがある。そう考えると、哲学的・宗教的寓話として読むこともできるのかもしれない。
 読んでいて、民主党もまた時代を反映をした「俺ら」の「俺俺」政党なのだろうか、と考えてしまった。本当の自分を見つめることを回避しようとするところから、この迷走と混乱が生まれているのだろうか...。