イングロリアス・バスターズ

 公開当時から悪趣味とか残酷とか、いろいろと批判を浴びた映画だが、確かに妙に残酷で悪趣味だなあ。映画マニアのクエンティン・タランティーノ監督は、様々な映画を引用するコラージュの映画作家といってもいいと思うのだが、この映画も「特攻大作戦」とか、いろいろな映画へのオマージュやパロディがある。
特攻大作戦 スペシャル・エディション [DVD] しかし、ナチは悪い奴で、ドイツ人はいくら残酷に殺してもかまわないというのは、やはり悪趣味という感じがする。そこまで極端に走るのならば、親衛隊の将校が米国の避暑地で優雅に暮らしている後日談あたりがラストでも、おかしくないのだが(現実に米国は戦後、ナチスドイツの諜報機関を対ソ冷戦に利用したわけだし)、そこまで行かないのは、米国ではポリティカルコレクト的に許されないからだろうか。中途半端なのか、連合軍側も嫌な奴と見せたかったのか。わからない。
 悪趣味さを残念に思うのは、残虐なアクションシーンよりも、敵対する者同士が延々と話す場面のほうがはるかに緊迫感があり、怖いからだ。タランティーノにはそれだけの演出力があるのだが、どうしてもケレン味を追うほうに行ってしまう。残念な感じもするし、それがタランティーノの教養、知性の限界なのかもしれない。映画的教養・知性はすごいんだけど、どこかで一般的な教養・知性が欠けているんじゃないかと思えてしまうところがある。ただ、ドイツ、フランス、米国、英国、それぞれの登場人物がドイツ語、フランス語、英語(さらにはイタリア人に化けてイタリア語)を話すところなど、言葉はわからなくても、各国語のリズムを聞かせて、すごくいい。こうしたところをみると、教養も知性もありそうな感じもするんだけど。
 出演陣でいうと、ブラッド・ピットはほとんどコメディのノリ。子供の無邪気な残酷さを演じている。アカデミー助演男優賞をとったSS大佐のクリストフ・ヴァルツはこの映画で一躍注目を浴びたのがわかるが、もっと見せ場があるのかと思った。女優陣では、ダイアン・クルーガーが好きだなあ。これは個人的な好み。ユダヤ系フランス人役のメラニー・ロランはちょっとカトリーヌ・ドヌーブに似たところがある。ジュリー・ドレフュスは「キル・ビル」以来、タランティーノのお気に入りなんだろうか。