英Economistの大人の主張――何が起こるにせよエジプトに民主主義を。独裁政治は混乱を招くだけ

Egypt's upheaval may make Westerners nervous, but when Egyptians demand freedom and self-determination, they are affirming values that the West lives by. There is no guarantee that Egypt's revolution will turn out for the best. The only certainty is that autocracy leads to upheaval, and the best guarantor of stability is democracy.

 エジプトの騒乱が続くなか、ムバラク大統領がいなくなって、どうなるのか、無秩序じゃないか、イスラム原理主義になるのではないか、反政府勢力の顔が見えないじゃないか、とか、いろいろな論調がテレビ、新聞に乱舞している。ムバラクを非難しつつ、必要悪として認めるみたいな論調。9月までムバラク暫定でいいじゃないか、というムードが見える。実際、前原外相のこんな発言も...

前原誠司外相は4日の記者会見で、反政府デモが続くエジプト情勢を巡り、米国などがムバラク大統領の即時退陣を求めていることについて「もっと現実的に考えるべきだ」と指摘した。ムバラク氏が退陣した場合の新大統領の選出方法に関して「国民が納得する選挙制度を検証しないといけない。それをやらずにトップが去った場合、職務執行代行者になし遂げられるのか」と述べ、政権移行は冷静に進める必要があるとの考えを示した。

 ムバラク自身、自分がいなくなったら、エジプトは混乱するだけ、ムスリム同胞団が出てくるぞ、と西側諸国に脅しをかけている。
 しかし、英エコノミスト(Economist)は、西側諸国が抱く、こうした懸念を全部飲み込んた上で、何が起こるにせよ、独裁よりも民主主義が最善の方法であり、西側は冷静になるべきだと主張する。独裁による圧政は続かない。エジプト国民が求めているのは、自由と民族自決であり、それはわらわれ西側諸国の拠って立つところではないかという。英エコノミストというと、保守派のようなイメージが強かったのだが(支配層の雑誌という人もいる)、その立脚点は、自由と民主主義で、それは揺るぎない原理原則なのだな。改めて感心する。大人なのだなあ。
 米国は、ムバラクみたいな人か、自分の意に沿う人による後継政権をつくりたいのだろうが、そんなことは無駄だとさえ言っている感じ。エジプトはエジプト人が決めるものだと。加えて、ムバラクがいなくなると、無秩序化するという論調に対しても、平和裡にデモを行っていた市民に襲いかかり、ジャーナリストに暴力を振るうなど混乱を生み出しているのは大統領支持派だと指摘する。
 反政府勢力に代表者の顔が見えないことについても、ロベスピエールトロツキーのいない革命と評する。以下のように、エジプトの革命は、過去の血塗られた革命と一線を画すというのだ。

Revolutions do not have to be like those in France in 1789, Russia in 1917 or Iran in 1979. The protests sweeping the Middle East have more in common with the popular colour revolutions that changed the world map in the late 20th century: peaceful (until the government's thugs turned up), popular (no Robespierre or Trotsky running things behind the scenes), and secular (Islam has hardly reared its head). Driven by the power of its citizens, Egypt's upheaval could lead to a transformation as benign as those in eastern Europe.

 確かにエコノミストが主張するように、新しいタイプの市民革命かもしれない。主催者側発表で100万人、テレビで報じられているように10万人だったとしても、これだけの巨大なデモ隊が暴力に走らず、秩序が保たれていることに着目すべきなのだろう(東京の小金井市国分寺市の人口が11万人なんだから、それが管理できているのは大変なことだ)。今回のエジプトの事件ではイラン革命を想起しがちだが、ホメイニがいないことこそが注目点なのかもしれない。軍が政府・反政府両派を隔離しているとはいえ、大統領支持派からの挑発にも乗っていない。テレビなどを見ていると、医療体制もある。この平和革命を守ってやろうという姿勢がエコノミストの記事には見える。
 ムスリム同胞団の問題にしても、このグループは一枚岩ではなく、いくつもの派閥があるし、国民の支持率は20%程度ではないかと推定している。さらに同胞団があろうがなかろうが、自由な国民投票が行われれば、もっとイスラム的な政権になるだろうという(それは仕方ないと)。そして、トルコもインドネシアもマレーシアもイスラム国家だと、イスラム異質論を排除する。むしろ、新しいイスラム民主国家像が、この革命から生まれるかもしれないという面を見る。
 大英帝国は第2時大戦後、植民地を失いながらも、そうした国々との関係を保ちながら、生きてきた。その歴史の知恵を感じるエコノミストの論説だった。米国をはじめとした国々にバタバタするな、といっているような。このあたりが英国であり、欧州の知恵の部分なんだろうな。歴史を見る目と歯切れの良さに感心した。エコノミストは、皮肉屋のインテリで斜に構えている感じがしたのだが、今回は真正面から論じているし、理想主義の気高い香りもする。ただ、単純な理想主義と違うところは、様々な西側の懸念を検証しているところ。そして、イスラエルも含めて、この「新しい現実」に対応すべきだと主張している。ここを歴史の転換と見ているのだな。
★JBpress(日本ビジネスプレス)による記事の邦訳
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