エジプト革命、リーダーの不在に何を見るか。無秩序か、新しい社会システムの萌芽か?

 エジプト革命には、目立った民主化運動のリーダーがいなかった。そこで、日経はこう書く。

ポーランドワレサ、韓国の金大中ミャンマーアウン・サン・スー・チー……。これまでの民主化運動にはシンボルとなる指導者と、支持者らが集う「野党」の存在があった。圧政が続いたエジプトの野党勢力は求心力に欠け、若者たちは政治経験に乏しい。

 一方、英Economistは、こう書く。

Revolutions do not have to be like those in France in 1789, Russia in 1917 or Iran in 1979. The protests sweeping the Middle East have more in common with the popular colour revolutions that changed the world map in the late 20th century: peaceful (until the government's thugs turned up), popular (no Robespierre or Trotsky running things behind the scenes), and secular (Islam has hardly reared its head). Driven by the power of its citizens, Egypt's upheaval could lead to a transformation as benign as those in eastern Europe.

 フランス革命でも、ロシア革命でも、イラン革命でもない(いずれも多くの血が流れた)。ホメイニも、トロツキーもいない(暴力革命のリーダーたち)。
 エジプトの民主化運動を20世紀的な文脈で見て烏合の衆と考えるのか、それとも21世紀的な新しいシステムの萌芽と見るのか。同じ現象を見ても、認識には大きな落差がある。現場に入ったジャーナリストたちのレポートを読んでいると、後者の視点を強く感じる。パレスチナからユーゴスラビアまで凄惨な現場を取材してきた百戦錬磨のジャーナリストたちがタハリール広場に入り、そこで見たものに強烈なカルチャーショックを受けていた。リーダーがいないのに、なぜ秩序だった管理がなされ、大統領勢力による挑発にもかかわらず、非暴力が維持されているのか。自分たちは世界史の転換点の現場にいるのではないかと感じているようだった
 日経があげたリーダーたちはいずれも偉大な英雄たちだが、自分たちの運動で勝利を手にしたわけではない。ワレサ金大中の勝利の背景には、冷戦体制の終焉があった。アウン・サン・スー・チーはいまも民主化を目指して戦っている。彼らほどのリーダーでも成し得なかったことをエジプトはリーダー不在の民主化運動で達成してしまった。タハリール広場は、プラハにも、天安門にもならなかった。これは社会論、組織論、政治論、コミュニケーション論、あらゆる点から刺激的なテーマだ。それなのに、この視点から分析した記事にはほとんどお目にかからない。
 そう思っていたら、あった! 日本でも考えている人がやっぱりいた。小飼弾氏が以下のようなブログを書いていたのだ。
 404 Blog Not Found:瞬縁社会の勃興 => http://t.co/QgOq6NJ
 「瞬縁社会」とは「ソーシャル社会」。コミケP2Pプロトコルなどを手がかりに、ソーシャルネットワークを基盤としたエジプト革命の社会論・組織論を展開している。さすが。で、最後に、こう締めくくる。

ただ最後に一つだけ指摘しておきたいのは、瞬縁社会においては、「いつやるのか」以上に「いつやめるのか」が重要だということ。リーダーによって主導された革命が必ずリーダーの独裁者就任で終わるのは、結局のところリーダーというものが「やめられないとまらない」ものであるからだ。
そんなリーダーがいなくても、革命は成った。
2011年のエジプト革命は、1979年のイラン革命にはならないであろう一番の理由が、そこにありそうだ。

 これはホメイニのいない革命。やはり、この視点で、今回のエジプト革命を考えてみる必要があるんじゃないか。リーダーがいないことを冷笑するよりも、なぜリーダーがいなくても成立したのかを考える。会社をつくらなくても、社長がいなくても、優れたソフトウエアができる。どこかオープンソースに似ている。ペシミスティックになりがちな21世紀だが、ここに希望があるかもしれない。上に立って仕切ることが大好きな人たちには我慢ならないことかもしれないが。

伽藍とバザール―オープンソース・ソフトLinuxマニフェスト

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