ジョージ・プリンプトン『トルーマン・カポーティ』

トルーマン・カポーティ〈上〉 (新潮文庫)

トルーマン・カポーティ〈上〉 (新潮文庫)

トルーマン・カポーティ〈下〉 (新潮文庫)

トルーマン・カポーティ〈下〉 (新潮文庫)

 原書の副題に「友人、敵、知人、ライバルが、彼の波乱にとんだ生涯をふりかえる」とあるように、関係者の発言で構成されたトルーマン・カポーティの伝記。様々な視点から重層的にカポーティが描き出される。ひとつの事実も、発言者によって話が変わってくる。「市民ケーン」や「大理石の男」のような展開。それでも、そこからカポーティの栄光と没落、野心と孤独が伝わってくる。ひとつの言動に好意的な人もいれば、批判的な人もいる。傑作『冷血』についても評価する人、評価しない人と分かれる。カポーティは『冷血』のあと、まとまった小説を書くことはなく、最後は酒と薬で自壊していくのだが、『遠い声 遠い部屋』『夜の樹』がカポーティ文学の本質であり、ノンフィクション・ノベルといわれた『冷血』がカポーティの方向性を変えてしまったという意見も出てくる。
 この本を読むと、カポーティの生涯で特に大きな焦点となるのは『冷血』と未完の大作『叶えられた祈り』。『冷血』の取材については詳細に紹介されている。カポーティは『冷血』の成功後、セレブとの社交生活に耽溺していくのだが、これも『叶えられた祈り』の取材だったとする見方もある。カポーティの母親は、上流階級に憧れ、カポーティを捨て(親戚に預け)、最後は自殺してしまう。社交界に斬り込むことは、母親がなぜ死んだのかを理解することでもあったという。『叶えられた祈り』は「市民ケーン」に出てくる「バラの蕾」(ローズ・バッド)のような気もする。カポーティの生涯を知るカギでありながら、作品の一部が発表されたものの、果たして原稿は完成していたのか、破棄されたのか、未発表部分に何が書かれていたのか、すべて謎の中にある。
 故人の人生を語るのに、インタビューを重ねていくという手法は面白い。発言している人の人間性も含めて、カポーティの人生と時代を体感させてくれる。
遠い声遠い部屋 (新潮文庫) 冷血 (新潮文庫) 叶えられた祈り (新潮文庫)