原子力資料情報室『検証・東電原発トラブル隠し』

検証 東電原発トラブル隠し (岩波ブックレット)

検証 東電原発トラブル隠し (岩波ブックレット)

 2002年に内部告発をきっかけに発覚した東電の原発検査記録の改竄・隠蔽事件のレポート。問題の舞台は奇しくも福島第一原発。こうしたことがあったうえに、今度の事故への対応があるから、どうしても東電、原子力安全・保安院への不信感が消えないのだな。ブックレットなので、事件の顛末と反響がコンパクトにまとめられている。10年近く前の事件で、すっかり忘れていた(この忘れっぽさがいけないのかもしれないが)。このときに、当時の東電社長が引責辞任し、現在会長の勝俣氏が社長に昇格したんだった。
 目次で内容を見ると、こんな具合。

I. 東電トラブル隠しの真相
II. 原発の安全性のうらがわ
III. 赤信号がともった日本の原子力

 これまでも原発に対する批判はあったが、「電力コミュニティ」とか「原子力村」とか「原発マフィア」とか、いわれる政官財学メディアの共同体の前にあえなく敗退していた。今度は真摯な議論が起きるのだろう。
 で、ちょっと気になったところを抜書きすると...
 まず、このトラブル隠しが明るみに出るきっかけんとなった内部告発者の取り扱い...

 保安院は、告発者保護を最優先にしたとしていましたが、東京電力の調査が進まない2000年12月、保安院は本人の氏名や会社での評価などの資料を東電にすべて渡しています。一方で、告発者との接触の手段は手紙のみで、告発者からの直接の聴取は一度も行われていません。その理由として保安院は、告発者が米国在住であったことなどをあげていますが、一方、2000年12月には、資源エネルギー庁の担当者が内部告発制度の調査という名目で米国NRC(原子力規制委員会)の現地調査を行っているのです。委員からは、「本気の調査だったのか疑問だ」という指摘も出ました。

 企業と官庁の一体ぶりがわかる。コミュニティなんだ。内部告発者は裏切り者なんだな、きっと。
 続いて、原発の定期検査について...

 これらの検査そのものは事業者(電力会社)が行うことになっていて、実際にはプランと製造メーカーやメーカーの検査会社に委託されています。それは原発の状態は製造したメーカーが一番よく知っているからで、東京電力もGEIIというGEの子会社に検査を委託していました。この企業も含めて一回の定検には約5000〜6000人が原発内に入ります。それに対して国の立ち会い検査は、ほとんどの場合検査官が一人しか立ち会わないのが現状です。この人員不足も、電力会社の不正を許す結果を招いています。

 要するに、東電も保安院も、原発を頭ではわかっていても、リアルにわかっていないと...。震災後の混乱ぶりを見ていると、説得力がある記述だなあ。というか、事実を書いているだけか。
 で、ベントについては、こんな記述が...

 鋼鉄製ないしはコンクリート製(鋼鉄の内張り付き)の格納容器が、大事故が起きたときの放射能放出を防ぐ実質上の最後の砦ということになります。しかし、原子炉内部で核燃料の冷却に失敗し、燃料が溶け出すような事態になって、大爆発(蒸気爆発や水素爆発など)が起きたときに、いつでも格納容器が耐えられるとは考えられません。米国のスリーマイル島原発事故(1979年)以後、こういうことが日本でも議論になって、大きな事故(過酷事故、シビアアクシデントなどという)の緩和策として、格納容器に内側からかかる圧力が過剰に上昇するのを逃すための配管(耐圧強化ベント設備)をとりつけています。本来なら放射能の放出を防ぐための格納容器に穴をあけ、放射能を外に出して格納容器の大破損を防ぐ、というちぐはぐな対策がとられているわけです。

 なるほど、確かに矛盾している。原発は最先端の科学のようでいて、未完の技術のようなところがある。リスクをある部分で考えないようにすることで成立している。ただ、その限界を超えたとき発生するリスクはとてつもなく大きい。本当にコストが安いのかどうかは、かなり疑問がある。
原子力資料情報室サイト => http://cnic.jp/