野口邦和『放射能事件ファイル』

放射能事件ファイル

放射能事件ファイル

 広島・長崎の被爆旧ソ連原子力潜水艦事故、劣化ウラン弾問題からチェルノブイリに至るまで放射能汚染の事例を紹介した本。日本共産党系の出版社なので、政府・財閥批判的な視点もあるが、それぞれの事件について淡々と事実を記録している。ただ、いろいろなところに執筆した記事をまとめた本でもあり、それぞれがコンパクトで、やや物足りない感じもするが、広島・長崎の原爆投下から、この本が出版された1998年までの主だった放射能事件が収録されているので、歴史を概観するのにいい。福島の事故があってから、たびたび登場する国際線登場の際の放射線量についても、健康被害予防の観点から取り上げている。
 で、地震原発については、阪神大震災のあと、原発地震対策が見直され、資源エネルギー庁が日本の原発は安全と主張していることを批判した、こんな一節があった。

 「原子力発電所内の地震計が震度五程度の揺れを感知すると、原子炉が自動的に停止する仕組みになっています」と主張しているが、放射能の漏洩や放射線被曝が起こるかどうかが問題なのであり、原子炉が止まれば安全といえるものではないのである。原子炉が止まっても厖大な量の放射能を有する炉心の冷却が地震によって損なわれれば、原子炉は空焚き状態となり、最悪の場合には炉心溶融事故(メルトダウン)に発展する可能性があるのだ。

 いまの福島原発の状況を言い当てている。電気が切れて、冷却できなくなったら、どうするの?という疑問は昔からわかっていた話だったのだな。「電力が足りない、だから原発しかない」から出発すると、思考停止してしまうのだろうか。「想定外」とはいえなかったなあ。
 で、どんな事件が紹介されているのか。目次でみると

【ファイル1】放射性廃棄物海洋投棄事件
【ファイル2】核兵器被害事件
【ファイル3】鳥島劣化ウラン弾発射事件
【ファイル4】広島・長崎の原爆被爆事件
【ファイル5】放射能汚染食品事件
【ファイル6】チェルノブイリ原発事故事件
【ファイル7】原子力発電の放射能事件
【ファイル8】天空の放射線被曝事件
【ファイル9】チョモランマの自然放射線
【ファイル10】身のまわりの放射性日用品

 核兵器被害事件は、核爆弾実験場のその後。放射能放射線については、シーベルト、キュリー、ベクレル、レントゲンと単位が多岐にわたり、記事によって、その単位も変わってくるので、福島原発事故を含めて、それぞれの事件で、どのぐらいの被害があったのか、比較しようとすると、なかなかわかりづらい。
 印象に残ったところを抜書きすると、まずはチェルノブイリ事故と日本の原子力産業について

 この事故は、私たちに原発潜在的危険性を改めて問いかけたものであり、世界の原子力開発の動向に大きな影響を与えつつある。こうしたなかで、日本はほとんど唯一の例外的な存在であるように思える。原子力安全委員会のもとに設置されたソ連原子力発電所事故調査特別委員会が「(チェルノブイリ原発事故は)設計における多重防護の脆弱性を背景としつつ運転員の多数かつ重大な規則違反により生じたものであり、わが国の原子力発電所においてはそのような要因が存在しない」、「わが国の原子力発電所の特徴等を考慮して定めた現行の原子力防災体制および諸対策を基本的に変更すべき必要性は見出されない」などという報告書をまとめ、チェルノブイリ原発事故の教訓を拒んでいるのは、その端的な現われである。

 「ジャパン・アズ・ナンバーワン」の傲慢さがあったのだな。
 チェルノブイリ事故での避難計画について

 チョルノブイリ原発事故では、放出された放射性核種の約2分の1が30キロメートル圏内に降下し、住民の体外被爆線量が退避レベルに達することが予想されたため、13万5000人が退避を余儀なくされた。しかし、ソ連では核戦争で生ずる被害の減少を目的とした大規模な民間防衛システムが準備されていたため、退避は比較的スムーズに行われたといわれている。
 また、大気中に浮遊していた粒子は雨や雪に出会うと、降雨・降雪地域に大量に降下し、いわゆる“ホットスポット”を生ずることがある。最近になって、30キロメートル圏外でも住民退避のあっtことが報道されているが、これらの地域は“ホットスポット”であった可能性が高い。

 放射能の状況は風向き、天候によって変わってくる。放射線測定ポイントを多くの場所につくっておく必要があるのだな。ともあれ、歴史に学び、活かすことの大切さを痛感する。「想定外」などという言葉を軽々しく使ってはいけない。